事の始まり
初めまして。奏かなたと申します。
初投稿です。よろしくお願いします。
「なんか最近お前・・・△×※・・×△⚪︎だよな」
…え、まってなんでそんなこと言われるの。ケイトのために頑張ってきたのに。
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「こらぁー!小森!実験中に居眠りなんて何考えてるんだ!!」
私は教授の声ではっと目を覚まして辺りを見渡した。そこはいつもの実験室。クリーンベンチに両手を突っ込み右手に持ったピペットで、シャーレに入った細胞に餌となる培養液を与えているところだった。
「見てみろ、目の前のカピカピになって死にゆく細胞達を!このままだと実験やり直しだぞ」
もっとも培養液は一滴しか垂らせておらず、その周りの細胞は教授の言った通りカピカピになってしまっていた。どうやら長い間居眠りをしてしまっていたようだった。
教授の声に引き寄せられたのか、実験室の扉の隙間から数人が覗き、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
「すいません教授…気をつけますんでどうぞご容赦を」
「謝るのは細胞にだろ!実験ノートにもちゃんと書いとけよ」
実験ノートとは実験の内容を全て記載する記録簿である。どんな条件だったか、どんな試薬を使ったのか、その結果など詳細に記していく。私はずっと失敗続きで成果も出せず、色んな条件での実験を試しているところであり、A4のノート2冊目に突入していた。
「はい…申し訳なかったです」
シャーレ内の細胞に向かって頭を下げた。
その様子を見て、やっと教授は満足したようで実験室を出て行った。
「あーやっちゃったよー。ここ数日の実験の成果が水の泡だ」
シャーレを感染性廃棄物用のゴミ箱に入れてため息をついた。
しかも『彼』の夢を見るなんて…もうこの恋が叶うことなんてもうないのに…
「はあぁー」
さっきより大きなため息をついた。
私は小森杏。大学の薬学部の4回生だ。薬学部は6年制なので就活はまだ先の話。今は研究室に配属になっており、毎日実験に忙殺されている。授業もまだ残っており、勉学にも気を抜けない上に、生活費を稼ぐバイトも掛け持ちしているため毎日全力で生きている。
…のだが、最近はある出来事のせいで大学生活に身が入らない。
実験道具を片付け、実験室を出た。荷物をとりに研究室へ戻ろう。
研究棟の廊下を歩いているとさっき隙間から見ていた同級生がこちらを見ながらまたクスクス笑っている。
もしやと思って口元を拭う。…よだれがバッチリついていた。
うん、気にしない。気にしない…。
研究室には同級生の美生がいた。
「おかえりー杏。実験長かったね」
「実験の途中で寝てた。そしたら教授に怒鳴り起こされたよ」
「え?何それどういう状況な訳?だからほっぺによだれの痕ついてんの?ちょっと杏には悪いけど面白すぎ」
まだよだれの痕がついていたらしい。ほっぺをゴシゴシ拭う。
堪えきれず笑いだす美生。
私は抗議の意味を込めてプスプスと人差し指で刺した。
「えーちょっと美生笑わないでよー」
「まあさ、杏、最近無理しすぎなんだって。バイトも多くない?なんだってそんな今の時期に増やしてんの?」
「……いや、ちょっとお金が必要で」
「それになんか最近、やつれてない? 服装とか色々ひどいし。何かあった?」
「…なんでもないよ」
でも……脳裏にケイトの声が蘇る。
「ごめん、やっぱり聞いてもらおうかな」
「よしきた。カラオケ行こ!杏の奢りね」
「えーー?わかったよ。フードは500円まででお願いします」
「オーケーオーケー」
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「それで?」
カラオケにきた私たち。美生はパフェをスプーンで突きながら話を促した。
「美生が勧めてくれたカフェの話なんだけど」
「え?あのカフェ行ったんだ」
「そう。すっごい良かったよ。すっごい良かったんだけど…」
「良すぎて貢ぎすぎちゃったんだね」
美生が私の言葉の続きをつないでくれた。
「じゃあ今杏がこんなひどい感じなのは私にも数%は責任があるってことか」
「え、ひどい感じって何」
「あんた自覚なかったの?鏡みてごらんよ。幽鬼みたいな顔してるよ。最近ちゃんと寝れてないんじゃない? 服装も前はおしゃれだったのに今は実用重視っていうかなんというか」
色々ひどいらしく数分ずっとくどくどと文句を言われた。
「ちょっとまって。耳の痛い話ばっかりなんだけど。私の話も聞いてよ。パフェ食べたでしょ?」
私は左手で耳を塞ぎながら、右手で美生の前の空になったパフェのグラスを指さして講義した。
「そうだった。ごめんね。はいはい、それで?」
美生は電話でポテトを勝手に頼み、やっと話を聞く体制になってくれた。
「それでね……」
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