プロローグ
「なあノヴェル、今日は何して遊ぶ?」
花々が隙間なく植えられた花壇の隣のベンチに座る幼い少年は、噴水のレンガに座るもう1人の幼い少年に話を始めた。
ノヴェルと呼ばれたレンガに座る少年は、辺りを少し見渡した後、ため息混じりの返答をする。
「ここではまだ“02”と呼んで」
「誰もいねえだろ?この庭園にはさ。嫌いなんだよ……!ノヴェルをそう呼ぶの」
ノヴェルは悲しげに呟く目の前の友人の姿にふっと微笑んで、辺りをもう一度見渡し、その名前を発する。
「もう……シアンは足が速いから鬼ごっこはいや……って、そんなに呼んで欲しかったのかよ」
ノヴェルがその名前を読んだ瞬間、シアンと呼ばれた少年は嬉しさの余り満面の笑顔をうかべながらベンチから噴水へと駆け寄る。
「じゃあさ!このだだっ広い庭を探し回ってさ、どっちが宝物を見つけてこれるか勝負しようぜ!?」
思いついた!と、言わんばかりに人差し指をピンと立ててシアンはノヴェルに提案した。
「あははっ、それ面白そう!やろ、僕は右に行くね」
「よっしゃ、俺は左だ!また後で、ここに集合な!」
そう言い合って二人は其々の場所を探し始めた。
そして暫くの時間が過ぎて______
随分と遠出をしていたシアンは急いで噴水の元へ戻ってきた。辺りをフラフラと歩いているノヴェルを見つけると、大きな声でノヴェルに呼びかける。
「おーいノヴェルっ!」
するとノヴェルはガバっと振り向いて、全力でシアンに駆け寄る。
「シ、シアン!何時だと思ってるの!?心配してたんだぞっ!」
「ふへへ、ごめんノヴェル。つい夢中になっちゃった…」
「もう……無事ならいいんだけどさ……」
「その代わり、凄えもん見つけたんだ!見ろよ、これ」
そう言ってシアンは手を差し出す。そこに乗っていたのは、土で汚れてはいるが煌びやかに光沢を光らせるネックレス。
中心には透明に輝く宝石が埋められており、余りの美しさにノヴェルは近くでまじまじと見惚れていた。
「す、凄い……ど、どこでこんな物を?」
「湖の近くだよ、ほら、鯉が沢山いるとこ」
「触っていい?」
「もちろん、それ、ノヴェルにあげるために持ってきたもん」
「ほ、ほんとに!?こんな物僕には……」
「いいんだよ、俺よりノヴェルの方がかっこいいから。これもよく似合うっておもったんだ」
ほらっ、とシアンは器用にノヴェルの首にネックレスを掛けると「やっぱ似合う」と微笑んだ。
するとノヴェルもポケットに手を入れた後、握り拳をシアンの目の前に差し出す。
「僕も宝物持ってきたよ。シアンにあげる」
そう言って指を広げて“それ”を見せつける。
それは透明な一輪の花。まるでガラスの花びらをつけた花は七色の色を付け、その不可解さにシアンは見つめ続ける。
「な、なんだこれえっ!?凄え!」
シアンはすぐさまその花を手に取り、空や花壇に透かして見つめる。
「綺麗でしょ!喜んでくれてよかったあ……」
「ああ!本当に凄い……こんな物があったなんて……」
二人は渡されたプレゼントを大切に両手で包み込み、いい時間だったと互いに見つめて笑い合った。
誰よりも友達であるそいつとの時間は、宝物と共に少年にとって最高の記憶として刻まれたのだった。