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魔神伯爵とThe Answer  作者: 宵闇顕葉
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7th. 先制攻撃と勝利

 今回、この領地に攻めてくる貴族は2ついる。ワルツェ男爵とミラミス子爵だ。ワルツェ男爵領は豊富な産物資源があり、ミラミス子爵領は豊富な鉱物資源と海に僅かに接していることもあり水産物が多い。この両家は僕の領地、ヴランディア領に接していることもあり、先代の時代から随分と高圧的に迫ってきていた印象がある。バルト伯爵はそんな彼らに弱みを見せないためにこう言った無駄遣いをしたというのは流石に考えすぎだろう。彼にそんな知能はないからね。むしろ、息子である僕を連れていかれた方が痛手になるはずだし。


 しかし、この両家には特徴がある。どちらの家もスラムの住民たちを迫害しているという点だ。


 この世界のほとんどの領地には腫れ物扱いされる人物たちの巣窟がある。それがスラム街となり、治安を悪くすることを助長しているのだ。仕方ない考えだとは思うが、それはそれで厄介極まりない。スラム街の住民というのは元々国の上層部に嫌われた人々や貴族の要求を断り落ちこぼれざるを得なくなった人々が多い。生まれ持ってスラムにいるといった人物は少ないだろう。


 そんな状況に国としては危機感を抱いており、今回僕にこのような両家の討伐命令が下ったのは、恐らくスラム街の人々の地位向上を狙ったものであると僕は考えている。


 ということで、僕は彼らを完膚なきまでに叩きのめさなくてはならない。さて、新作魔法のお披露目と行こうかな?



 ワルツェ男爵とミラミス子爵はヴランディア領を目の上のコブのように思っていた。以前、バルトが納めていた頃から鉱山の権利について争いを続けていたためだ。この両家は結託し、ヴランディア領を攻め落とすことを考えていた。

 王国の法では、宣戦布告をした後であれば自由に他領を攻撃できるという致命的な欠陥があった。それを悪用する貴族がもとより少なかったことが原因であるが、度々このような戦はどうしても起きてしまう。彼らも、その貴族の一部だった。


 ワルツェ男爵は恰幅がいい比較的温和な顔をしている大柄な男だ。白い髪と髭はどこか優しさを感じさせる。

 ミラミス子爵はスラっとした服装に眼鏡をかけている。スーツのような服を身にまとっていて、ワルツェ男爵と同じような白い髪と髭を持っているがどこか彼とは違い冷徹さを感じる。


「しかし、あのガキが納めている領地か…スラムの家畜などというゴミを人間と見做すなどとは正気か?」

「正気だとすれば、それは貴族としては有り得ざる蛮行だな。して、家畜どもは捕らえて奴隷にでもするのか?」

「いいや、奴らは犯して遊んで殺すだけよ。どうせ意味のない奴らよ。まあいい、これより奴の領に宣戦布告でもして殺すかね?」

「そういえば、奴の家にゃちょうどいい奴隷になりそうな美人がいるんだ。かっさらうってのはどうだ?」

「良いなぁ!さて、それではさっそく…。」


 2人はそういい出陣命令を出そうと軍旗を手にした時、伝令より1報が入る。

 すでに先行部隊はヴランディア領に攻め込んでいる頃だろうか、今来るのは砦の陥落の報告だろうと両者は思うが、現実はそう甘くなかった。


「伝令!リット・メルト・ヴランディアが我が軍に対し単騎で迎撃!『死にたくなければ攻め入るがよい』とのことです!」

「な、何ぃ!?小僧!気でも狂ったか!」

「そして、追加で報告です…。」

「何事だ!」


 そして、その言葉を聞いた時、2人は有り得ないと口を揃えた。


「連合軍の先行部隊が、腐臭を漂わせながら全滅しました!」


 その刹那、ドサドサ!という音と腐臭が漂う。どうやら自分たちの後ろで鳴った音のようだ。


 振り返った2人の前に落ちていたものとは…。



 さて、やるかな…。


 宣戦布告はすでに住んでいる。また、彼らが攻め込んできた時点で迎撃してもいいという話は宰相より伺っているから、間違いない。


「お見せしましょうか…!この私が3日も寝ずに開発をし続けていた魔法ですよ?さっさと喚いて狂って死になさい!『魔悪』属性魔法、『腐敗(ロット)』!」


 この魔法は相手の肉体をただただ腐敗させるだけの状態異常の魔法だ。魔力消費はまず火を起こすよりも随分と少なく、燃費がいい。どれくらいかは分からないけれど、まあ、先行部隊のあの様子じゃあ彼らは全滅したって考えられるね。まあ、首だけ腐敗させないようにしたから、多分今あそこに転がっているのは腐りきった肉体とそこに首が浮いているという地獄絵図かな?まあ、彼らは先行部隊とは言っていたけど、ぶっちゃけ彼らだけでここに攻め入ろうとしていたみたいだ。遠距離だから結構不安だったけど、魔力消費を多くしたら【真眼】の射程範囲に入れられたから何とか心を読んでみたけど、こっちの領地に対して悪印象しかもっていなかったからね。殺されても仕方ない。彼らにも家族はいるが、こうでもしないと僕が()()人間だって示せない。必要な犠牲、というやつだよ。


 ギャアギャアと喚いて仲間たちの死を悼む声が聞こえる。どうせ逃れることなどできない死が近づいているのだろうと彼らが絶望しているのが風を通して分かる。肌で感じる。


 おっと、彼らの無様な死にざまを見て、白旗を振る部隊がいるようだ。彼らのことは一部の信頼のおける領民(スラムの人々)に捕縛を命じてある。元領民よりも元スラムの人の方が信用できるのはなぜだろう…?なお、一人も殺してはいけないと釘を刺してある。


 なお、スラムの人々を1人でも殺したら腐らせて殺すということを伝言で伝えてある。彼らの安全を保障するのも領主である僕の仕事だ。後始末は燃やし尽くすだけで済むし、どうせ楽な仕事だろう。


 おや?後ろにいるのは本丸といったところかな?総大将…とはいえ、この場合は2人の将がいるわけだ。


 ちょっと魔力をポーションで回復しよう。…うわ、めちゃくちゃ不味いね。吸収率はとても良いらしいんだけど、酸味と苦みが異常に強い。こんなのは戦闘中に飲んでられないね。改良が必要だ。


 それはともかく、僕は本陣に【転移魔法】で攻め込むことにした。



「こんにちは?」

「なっ!お前は!」

「今日はお日柄もよく、とても心地の良い狩り日和でございます。ということで、あなた方の命を狩らせていただきます。」

「待て!俺は大義名分が!」

「宰相より、『逆賊を打て』と命じられております故…。」

「クソ!告げ口しやがったな!あのバカ娘がぁ!」


 僕は剣を振り…。


 サクッ


 グチャッ


 恰幅の良い貴族は首を落として死んだ。まずは1人。


「ま、待て!これから話し合おう!私たちはまだ罪を犯していない!」

「スラムの人々を迫害することを、王は禁止したのです。そして、彼らを人間として扱うとした時、あなたは何と言いましたか?」

「そ、それは…。」

「あんな奴ら、人間というのは間違っている。スラムの連中なぞ家畜同然よ…そう言いましたね。良かったですねぇ~、あなたは宰相と国王様に目を付けられました。結局死ぬことには変わりないのでこれから殺して差し上げますね?」

「ま、待っ…!」


 僕は今度は魔法で浮かべていた大鎌を使ってもう1人の貴族を殺した。


 人を初めて殺したが、別に対して不安がることはなかった。でも、どうしてだろう。前世はもう少し平和な世界だった気がしてならない。


 そんなことを考えていたが、()()()()()()()()()、と僕はそれを無視した。



 総大将が打ち取られた軍隊は統率が取れなくなると思っていたが意外とそうではなく、分隊長が聡明な人物であったが故に僕に降伏、降伏した兵たちは1度拘束したうえで開放するといった旨の説明をした所『命を助けて頂けるだけで有り難い』といった言葉が出ていた。嘘は言っていないようで、彼がこの分隊の要であったことは容易に考えられる。そんな彼曰く、ワルツェ男爵の戦の方針があまりにも穴がありすぎたために進言したらそこで彼の怒りを買って資金を下げられてしまったらしい。彼はこの戦が終息した後、是非とも仲間に引き入れたいところだ。僕はまず、ワルツェ男爵領へと行くことにした。



 ワルツェ男爵の首を槍の穂先に刺し、僕はスラム街から領主の屋敷までを歩く。後ろには兵士たちの首を引っ提げている。あの後仕分けして回収したのだ。臭いし見ているだけで吐き気がするから大変だったよ。…自分でやっておいてなんだけど。

 スラム街にいる理由というのは彼らの勧誘のためと今行っている政策、学校の建設と戦力の増強のためだ。ぶっちゃけ、学校の建設については僕が学校に行ってからで十分ではある。僕が王都の学園で学んだ知識や形式について、似せるのではなく全く別の方向性にして学園を作り上げたい。王都のをパクったという話が出ては僕の評判が下がるし、後の物語で僕に対して兵を挙げる者が現れる危険性だってある。そのような危険性は芽のうちに摘んでおくに限るしね。


 さて、スラム街では『ワルツェ男爵、戦場にて討死!ワルツェ男爵領は我、リット・メルト・ヴランディアの領地となる!我を信じる者は付いて参れ!』と叫んだ。彼らの反応は大きく2つに分かれる。信じる者と信じない者だ。

 僕が子供だからだというのもあるが、無名の男が随分辺境に位置しているとはいえ男爵を打ち取ったという話は到底信じることができるようなことではない。しかし、領主の首が刺さった槍を持っているあたり、僕の言うことを信じる人の方が多そうだ。多くのスラムの住民が僕の後ろを歩く。なお、スラムの住民を迫害することを許さないという内容のセリフを叫びながら僕は町へと踏み込む。スラムの住民が石を投げられることもなくなれば、反乱を起こすものもいなくなることを願う。


 最後にワルツェ男爵の屋敷に行くには訳がある。ワルツェ男爵家の令嬢は物語では話にしか出てこないが魔法の才があるらしい。これからここの領主は僕になるから、彼女をスカウトして魔法の先生になってもらおうと思う。使用可能な魔法を知るために必要な『鑑定石』は僕が手に入れるとして…。


 よし、大体のプランは決まった。あとはゆっくりと屋敷に向かっていくだけだ。



 私は信じがたい光景に目を疑っていた。『幽境廃子息』と嘲笑を浴びるリット・メルト・ヴランディアが我が父、ガイランド・リムル・ワルツェの首を下げてこちらへと向かってくるのだ。彼の後ろにいるのは我が領の長年の悩みの種であったスラムの住民たちであり、下手をすると我が領に攻め込んだ拍子に反乱軍を立ち上げて攻め入ったのかもしれない。


 しかし、それにしては私の護衛があまり驚いた様子もなければ、特に取り乱した様子もない。何故か?私は近くの使用人に問う。


 メイドの彼女はこう答えた。


「リット・メルト・ヴランディアという人物は廃嫡された際にスラムの住民に命を救われたことがあるらしいのです。それ故、スラムの住民に対する対処がうまいのでしょう。」

「では、そこまで平然と業務に勤しむのは?」

「彼は敵対者と自分には厳しく、身内仲間には非常に好待遇をするということで有名です。とはいえ、最近領主になってからですので時間的にはそう広まっていないかと。お嬢様が知らなくても不思議ではありません。」

「彼が私に害を与える危険性は?」

「皆無に等しいかと。それに、あなたは領主様が出陣する際、その様子を王宮に知らせましたよね?」

「ええ。」

「彼はそれに感謝していると考えられます。それに、いまこちらに来る彼らから罵声は聞こえますか?」


 そこまで言われて気づいた。

 彼に率いられているスラムの住民たち、町の住民たちは誰一人として罵声を浴びせておらず、また恐怖によって支配している気配すらない。遠くからでは彼らの表情が分からないが、それはとても真剣な眼差しであると感じられる。


「だから、我ら使用人一同は安心して業務に取り掛かれるのです。」

「なるほど。ありがとう、業務に戻って。」

「かしこまりました。」


 リット・メルト・ヴランディア…か。


 楽しみになっちゃった。



 僕はスラムの住民と途中から参加した町の住民率いて屋敷に向かう。彼らは石を投げることもせず、領主を打ち取った僕を讃える声を上げるほか、スラムの住民に対して思うところがあった者はその非礼を詫びた。嘘はないようだ。しかし、ここで【真眼】を使うのは流石に野暮だな。僕は【真眼】を解除し、すでにボロボロになってきてしまった領主の頭を布で縛り付けて歩いた。


 ちなみに、ミラミス子爵領は元スラムの住民に彼の首を刺した槍と兵士の首を持って歩かせている。騎士の装備を引っ張り出して似合うようにしたし、立ち振る舞いが騎士のようなスラムの住民がいたため彼に任せた。だいぶ重労働なため、後でボーナスでも出そうと思う。


 さて、ようやく屋敷へと到着だ。



 僕は付いてきた者たちを待機させ、屋敷に入る。執事と思わしき人が出てきて僕を案内する。彼の首筋には冷や汗と思われる汗が滝のように流れている。いつ殺されてもおかしくないと思っていそうだ。後ろには大鎌を2つ交差させるように浮かべており、黒い服を身にまとったその姿は可愛い死神といったところだろうか?…自分で言ってなんだが正直身長が欲しい。そう思うこの頃だ。



 さて、ワルツェ男爵の令嬢とのご対面と行きますか!


 執事が戸を開けると、そこには黒を基調としたドレスを身にまとった僕と同い年ほどの少女がいた。名前は憶えていないが、死の間際に放たれた言葉より、ワルツェ男爵は彼女のことをあまりよく思っていなかったようだ。


「まずは、初めまして。()()()()の名はリット・メルト・ヴランディア。気軽にリットとお呼びください。」

「は、初めまして。私はアニマ・リムル・ワルツェ、ワルツェ男爵家令嬢にしてこの領の領主になる…そんな未来はもう無くなってしまったのだけれど。」


 儚げな笑みを浮かべる彼女の顔はあまり整っているとは言えない。しかし、同年代の平均的な体系、ドレスと顔はよく合っているといえる。彼女のイメージとドレスの色は合わせたのだろうか?だとしたら、相当のデザイナーだ。安直なイメージとは言えないこの雰囲気。人材不足な我が領においては是非とも引き抜きたい人材だ。


「今回はワルツェ男爵を打ち取り、あなたに対して降伏を促すためにここに参上しました。」

「ええ。私はもう降伏よ。少なくとも、主力であった第1兵団はここにはいない、私一人で抵抗してもその大鎌で切り捨てられるでしょう?なら、私は降伏するしかないわ。」

「では、ここに調印を。」

「はい。」


 アニマは僕が渡した書類にサインをする。降伏したのち、この領地をヴランディア領にし賠償金を発生させないか、賠償金を払い領の経営権を保持するかの2択だが、彼女はどうやら領を手放す方を選んだようだ。領主の娘という重圧から解放されるし、何ならどっちにしろ首に刃を突き付けられた状態だったからそれを避けられただけでも大きいのかもしれない。


 ここで、アニマは貴族という称号を剥奪されることになるのだが、彼女自身は覚悟できていたようだ。というより、そんなことになっても問題ないように使用人たちが鍛えてくれていたようだ。対応能力が高いことで何より…。


 ひとまずは勝利だ。さて、スラムの住民を救済し、手に入れた領地を開発して何とかしていかないとね!あ~あ、皆殺しに出来なくてちょっと残念。腐った人たちはみんな消しちゃえばいいのに。


 ってあれ?()()()()、皆殺しとか言ったの…?流石に僕じゃないよね…。アハハ…。



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物語破綻を確認しました。

イベント『旧帝国の陰謀』の出現条件が消滅しました。

イベント『魔導神訪ねて』の出現条件およびクリア条件が消滅しました。

イベント『悪魔との邂逅』の出現条件が消滅しました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 リットは気づいていなかった。


 この時点で、すでに彼自身がラスボスになるルートが途絶えていることに。


 また彼は知らなかった。


 この時点で、主人公たちの負けイベントを潰していたことに。


 ここで起きる弊害を、彼はまだ理解できていなかった。


 この時点で、アフターモードへの移行が絶望的になっていることに。

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