夏日に金魚
「……暑いわ」
「……暑いな」
さんさんと照りつける日差しの中、耐えきれないと言った様子で零したアンバーの言葉に、額に汗を浮かべていた菜生も淡々と応じた。
日差しを遮るものの無い街道の途中、ぱたぱたと素手で自身を扇いでいたアンバーは、服が汚れるのも構わず道ばたの木陰に腰を下ろした。
「おい」
「次の街まではまだまだあるわ。一息入れましょう」
顔をしかめた菜生ににっこりと微笑んだアンバーは隣に座れと言うようにぽんぽんと地面を叩く。
菜生としては休むより進んだ方がより早く快適な場所にたどり着くのではと思いつつ、先を急ぐ旅でもなしと素直にその隣に腰を下ろした。
気温はさほど変わらないものの、直接日が当たらないだけで多少木陰は涼しく過ごしやすい。
♪~~♪♪~
アンバーが鼻歌を歌い出すと、ほわりほわりと中に色とりどりの金魚の幻影が浮かび上がった。同時に降り注ぐ日差しが水中のようにたゆたい、心なしか和らいで感じるようになる。
近づいてきた幻影の金魚に触れようと菜生が手を伸ばすと、その指先をスルリと金魚はすり抜けた。そのままその金魚が彼女の目の前を過ぎれば、ほんのり水の匂いがしたような気がした。
アンバーの歌声にあわせて、日差しを浴びた金魚は虚空を舞い踊る。
夏のひととき、幻影の水中が旅の途中に揺れていた。
@Wisteria_Saki様作、文字書きワードパレット2・タイヤン
「浴びる」「匂い」「金魚」
をお代に執筆させて頂きました。