表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/32

18話:品定め、娘達

無遠慮に突き刺さる視線にちらりと目を合わせれば、エスメラルダの目にはその人の選択肢が見えていた。ほとんどはこちらから干渉する暇もなく、「近くの人と内緒話をする」という選択肢を取っている。国王はこういった噂話を好む人ではないというのに、「今は黙る」という選択肢を取れた人はごく少数であった。

(大の大人が、内緒話のひとつも我慢できないなんて。まるで小さい子供のようですわね)

一年生の間に友達とそうやってこそこそ話をしては、礼法の先生達に叱られたり罰則を与えられて沈黙を覚えたことを思い出す。

そんなことを思ったのは、半ば現実逃避だと自分でもわかっている。《力》なき貴族は存在するが、《力》なき王族は基本的に存在しない。その古くからの言葉に則って、《力》に目覚められなかった他の令嬢も婚約者候補から降りると国王から下知があった。エスメラルダのことがとにかく目立っているのは、彼女が「強い《力》に目覚める」と予言される等して注目されたからだ。

「……父様」

娘の肩をそっと掴んだのは、父であるアシュクロフト伯爵だった。室内だというのに、少し風を感じる。それが誰によるものかはすぐにわかったのだろう、彼らはその娘から目線を逸らした。父娘に最後まで目を向けていたのは、国王だった。

アンジーの方をエスメラルダが見ると、彼女は授業で習った作法通りにしっかりと立っていた。しかし不安を感じるのか、針がぐるぐると回っているのがわかった。それでも迷っているのが「噂してる人に言い返す」「黙って立ってる」「文句のひとつくらい言う」な辺り、火事場根性のようなものはエスメラルダが思っていたよりあるらしい。ただ優しく穏やかなだけでは貴族社会を生きていけないと心配していたが、少し印象を改めた。

「アルフレッドとの結婚相手については、来年のこの場にて発表する。また、この場を借りて新たな婚約者候補となったスライ嬢について宣言するべきことがある」

杖で大理石の地面をつく音で、会場は一瞬で静かになった。少し言葉の間が空く間に、エスメラルダは国王がどのように話すかを迷うのを見る。国王は声を荒げず、静かに話すことを選んだ。

「スライ嬢は、『スライ』だ。彼女は今のところ、独立したひとつの家として扱う。そしてこれは、彼女の養育を放棄したのがどこの家であれ、干渉を許さないということを意味する。スライ姓の孤児は一門の隆盛や没落に関わることを許されず、また、いかなる家の者であれ王子の婚約者候補になったのだからと今更親の顔をするも許されない。スライ嬢には後ほど『血脈の宝珠』を貸与するから、これを以て関わる相手を決めるように」

二人が触れると、血縁関係にある者同士であれば光ると言う魔法の宝物。それを貸与するということは、アンジーにとって血縁を探そうと思えば探せることを意味していた。ちなみに、この宝珠は貴族家なら珍しいものではない。事実、この場にいる者のほとんどは家にそれを持っていた。私生児を名乗る者が現れた時や、嫡出を疑う事態になった時に使う宝珠は、結婚のひとつの基準でもあった。あまり血が濃すぎる者と結婚しないように、「宝珠が反応しない相手」が国の法律における結婚条件のひとつになっている。

「スライ嬢、前へ。手袋を外して、宝珠に触れるが良い」

「はい、陛下」

アンジーが前に進み出て教科書通りに一礼。緊張でかすかに震えた手が血のように赤い、握り拳大の触れる。

その宝珠か光ることなく沈黙していることに、彼女はほっと息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ