筋肉好きだった男が王女に転生したらとんでもない試練が待ち受けていた
主人公の名前が頭から離れずに書きました。
俺は山田太郎という名前の男だった。
柔道で黒帯を持っていて、ムキムキの筋肉が自慢。
筋肉は素晴らしい、筋肉はひとりぼっちだった俺に語りかけてくれる、筋肉は俺の友達だと、本気で信じていた。
その日も友人である筋肉と語りながら歩道を歩いていたら、大型のトラックに突撃され、俺は筋肉たちと共に死んだ。と、思っていたら……
「ヌルルフォイ! 貴女の名前は今日からヌルルフォイよ!」
「ヌルルフォイ! 良い名だな」
どうやら転生したらしい。
赤ん坊となった俺は、女に生まれ変わったようだ。股間の感触が寂しい。スゥスゥする。
生まれ変わった俺は、周囲の言葉などを理解し、前世の記憶と合わせて異世界に飛んだのだと仮説を立てた。それも、何処かの王国の第一王女として。
「あぁヌルルフォイ! これからどうか貴女の人生が幸せで溢れますように!」
母親らしきケバケバしいおばさんにブチュッとほっぺたにキスされた。拭いたかったけど、俺は必死に我慢したというか、赤ん坊だから何も出来ない。
「ヌルルフォイ姫、さぁ私にも抱かせておくれ。私がお前の父親だよ」
こちらも白髪混じりのおじさんに抱っこされ、俺は戦慄した。だって、なんか凄い香水の香りがする。気持ち悪くて吐きそうだ。
「ヌルルフォイ! おお良い子だ……」
すみません、俺、貴方の臭いで死にそうです。とは言えず、俺は大人しく腕に抱かれている。
何しろ赤ん坊だからな! なんにも出来ませんとも!
「ヌルルフォイは将来我が国に光をもたらしてくれるだろう。おお、どうか神の加護があらんことを……」
「パオン陛下。どうか、泣かないでくださいな」
「これが泣かずにおられようか、ナンチャッテーナ! 」
俺は赤ん坊ながら頬を引き攣らせ、思った。
ネーミングセンス酷ッ!!
これはちょっと無いわぁ……
俺はなんという所に産まれてしまったのだろう。おお神よ、じゃない。神は恐らく死んだのだ。
俺は白目になりながら思った。
俺はこれからやって行けるのか……と。
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生まれ変わって18年。
俺こと、ヌルルフォイの元には幾多の婚約のお誘いが舞い込んで来ている。全てお断りしているが。
この世界は魔法に溢れており、魔法力が高いもの程尊敬される世界なのだとか。俺は何故か魔法力が高いらしく、魔法の先生からもお褒めの言葉を頂いたほどだ。
本当は筋肉という名の友人を再び作りたかったのだが、この世界にはプロテインや運動器具は無く、筋肉を維持することが出来なかった。というか、ヌルルフォイの体は筋肉が付きにくいらしく、腹筋をしても鳥のささみを食べまくっても筋肉のつきが良くなかった。
用意される服はヒラヒラのドレス、それにヒールの高い靴。俺は仕方なくこれらを身に着け、ランニングをしている。他に着られる服が無いからだ。贅沢は言ってられない、何しろこれら全て国民の血税でできていると言うのだから。
俺がその日もせっせと王宮の中庭でランニングをしていと、最近現れるようになったウザイあいつが姿を表した。その名も……
「ヌルルフォイ姫、ごきげんよう」
「あら、キラリーン殿下。ごきげんよう」
キラリーンは隣国の第2王子で、どうやら俺の事を狙っているらしい。なんでわかるかと言うと、その瞳がプロのボディビルダーを見ていた頃の俺に重なるからだ。
「ヌルルフォイ姫。お美しい……結婚して欲しいです」
「おほほほほ、相変わらずですわねキラリーン殿下。私は誰とも結婚するつもりはなくってよ」
「そこを何とか」
「何ともなりませんわ。他を当たりやがれですわ」
「私には貴女しかいないのです」
「そう言われましてもですわ」
ご勘弁願いたい。
俺は前世男の記憶がまだ根強くあるのだ。男とどーにかなるなんて出来ない。
因みに、この国の後継者については、俺の後に弟(シャッキリ王子)が産まれたので、なんとでもなるだろう。
キラリーンは、口から砂糖を流し始める。
「その流れるように美しい滑らかな髪」
「直ぐに短髪に致しますわね」
「紅色の唇」
「化粧落としはどこかしら」
「何よりも私を虜にする、その黒曜石を思わせる美しい瞳! あぁ、なんて美しいんだろう」
ほうっとため息をついたキラリーンを本当は近くの噴水に投げ飛ばしたいのを必死に堪え、俺はニコリと笑って言った。
「一昨日来やがれですわ」
「ヌルルフォイ姫が何を仰っているのかわかりません。私は一昨日も来たでは無いですか」
「話が通じない……」
俺は仕方なくキラリーンを外交問題が生じない程度の掌底で気絶させ、中庭の木下に寝かせておいた。誤魔化すように上から眠りの魔法もかけておいて。
「はぁ……これから国を出ようと思ってるのに、先が思いやられますわね」
そう。俺はこれから別の国に留学する予定なのだ。
「ファッ国。どんな国かは分からないけれど……」
この国にいるよりはマシでしょう。
この世界では唯一、 剣を教えてくれる国なのだとか。
「ふぉい!」
魔法を使って自分の自室へと戻り、鏡の前の自分と向き合う。
「俺は必ず友達を取り戻す……」
今は声を聞かせてくれない上腕二頭筋を動かしながら、俺は強く願うのだった。
書いていてとてもたのしかったです。
短いですが、最後まで読んで下さりありがとうございました。