40 バリエガータの危機
バリエガータの危機を知らず、ゲートナンバー二十五のメインシェルターの取り外し作業を行っている「報復の女神」たちを見ているコモンの元に、一匹の黒猫がやってきた。
『ニャーオ!』子猫のわりにすごい声で鳴くので足元を見ると、『ニャアーアーアーッ!』と大声で鳴いて見上げるので、コモンの顔がこわばり、子猫を抱き上げると
『ラクエウム。アド ” パラティウム・オルチ” ヌンク・レヴェラタル・エルゴ・レリクア・ティビ・レリンクアム(ラクエウム。一旦「冥府の宮殿」に戻るので、あとのことは任せる)』
と言うと、ワインレッドにゴールドのラインが入った甲冑を着て、若草色の髪と瞳をし、コウモリのような翼を広げて、黒バラの花びらを高熱状態にしてメインシェルターの枠を溶かしている「報復の女神」のデセプトルを見ている、鉄球付きの鎖を持つラクエウムが振り返り、コモンを見ると頷くので、その場から移動する。
コモンは傍にいる「漆黒の狼」の半分をその場に残し、ゲートナンバ―二十五のエアポートから出ると、黒猫を肩に乗せたまま、残りの「漆黒の狼」たちと同じスピードで、「ある場所」へ向かって闇に近い暗さの道路を走りだした。
その途中、ロイに連絡する。
「コモン。もうゲートナンバー二十五のメインシェルターを取り外したんですか?」
『バリエガータがやられた』
「エエッ!」ロイの驚く声が聞こえる。「バリエガータがやられたって、誰に!」
『彼女の使い猫は、インサニアと名乗る男にやられたと言ってる』
「奴もここに居るんですか!」
『いや、きっと偽者だろう』
「それで、バリエガータは大丈夫なんですか!」
『いや。消し飛んだらしい』
「……!」
『死んじゃったの!』悲鳴に近いシュールの声が聞こえる。
『辛うじて逃げ切ったらしいが、肉体が消滅してしまったので、「冥府の宮殿」に意識だけ戻ってるそうだ。なので、一旦「冥府の宮殿」に戻るので、私が戻るまで持ち堪えてくれ』
「メインシェルターの取り外し作業はどうなってますか?」
『続けてる。ラクエウムにあとのことを任せたので作業は継続してるが、君たちが危険な状態になったとき、助けに行くことができない』
「……わかりました。こちらはなんとかしますから、バリエガータを、彼女を助けてください!」
『もちろんだ。心配するな。彼女も長年、宮殿管理者の役職に付くベテランだ。危険を回避する術は心得てる』
「……そうですか」
『大丈夫なの? バリエガータは生きてるの?』涙声のシュールに『生きてる。心配するな』
『よかったああああ!』
コモンの返答を聞いて、ロイもホッと胸を撫でおろす。
『彼女を手に掛けた、奴の姿をした何者かのことも聞いてくる。君たちの護衛は、マーティと一緒にいる「漆黒の狼」の群れが対応するが、敵が何者かまだわからないから、十分注意してくれ』
「わかりました。それで、コモンはどうやって「冥府の宮殿」に戻るんですか?」
『一番近くにある「妖精の道」の入り口に向かってる』
連絡が来たときから走っている足音やマントの擦れる音が聞こえていたので「ゲートナンバー二十五の近くに入り口がありますか?」
『いや。少し遠い場所にあるので、急いで向かってる』
「バリエガータは戻ってこれますか?」
『いや、たぶん動くことはできないだろう』
「……そうですか。とにかく、彼女の治療をお願いします」
『わかってる。できるだけ早く戻るようにするが、その間、十分注意してくれ』




