36-3 謎の召喚者
そのコモンから、ゲートナンバー十五のメインシェルター取り外しが終わったと連絡がきたのは、それから少し経ってからだった。
「お疲れ様です」ロイが光っている黒曜石の指輪に話し掛けると『今のところ、問題なく作業が進んでるが、なにか不穏な動きがあるようだな。大丈夫か?』冷静なコモンの声が返ってくる。
「それが……」何者かにエンジンを破壊された宇宙船の事件から、マーティとの謎の召喚者のメールのやり取りや、宇宙管理局からの倉庫破壊事件の報告を話し、
「水の宮殿」を襲ったサチェルドス・デイ(神の巫女)の一つである「破壊の女神」が、召喚者とともにここに来ていることを伝えると
「バリエガータが宮殿監督庁に捜査依頼を出していたと思うのですが、結果を聞いてますか?」
『それなら、進捗情報が来てたな。「封印の宮殿」に収められていた「破壊の女神」像は、だいぶ前から偽物と入れ替えられていたことが、調査でわかったそうだ。ご丁寧に偽者の像には、本物の像から発せられるエネルギーが張り付けてあったそうだ』
「前に「封印の宮殿」は他の宮殿と違って特殊だと聞いたことがあるんですが、そのことが「破壊の女神」像のすり替えに関わってたりしますか?」
『いや、それはないだろう。確かにあの宮殿は他の宮殿より異質な、というか、根本的にほかの宮殿と造りが違うんだが、それ故に、許可なく宮殿内に入ることが難しいんだ』
「そうなんですか。それで、ほかの情報はないんですか?」
『あとは、侵入した痕跡がないので、正確にいつすり替えられたかは断定できないが、おそらく百年くらい前だろうと予測されてる』
「フゥ、百年くらい前ですか……僕たちが生まれる前に、すでに偽物とすり替えられてたんですね。それにしても、痕跡がない。それは逆に「封印の宮殿」に出入りできる者の可能性が高い、ということになりますよね?」
『もちろん、その線も調べたそうだか、怪しい者はいなかったそうだ』
「宮殿監督庁で働いている誰かの可能性は?」
『フフッ、俺と同じところに目を付けるな。宮殿監督庁には文字どおり、各宮殿を見回り、セキュリティや建物の老朽具合を調査する部署がある。その部署の者であれば、宮殿の責任者に訪問連絡をするだけで、責任者の立ち合いも必要なく宮殿に入ることができるんだ』
「それでは、真っ先に疑われるのではないですか?」
『俺が疑ってるのは、他の部署の者が担当部署の者に成り済まして、入り込む可能性のほうだ』
「ああ、なるほど。そういうケースも考えられますね。さすがコモン」
『コモンがいたらどんな悪だくみも見抜かれそうだから、内緒で動いたほうがいいね』
『シュール。聞こえてるぞ』
『あらま』




