36-2 謎の召喚者
『青い甲冑に柄の長いハンマー、真っ赤な髪、間違いないね。マーティが話してたことと同じ。倉庫を壊したのは「破壊の女神」だよ』とシュールが言うので、ロイは軽く頷くと「たぶん、奴らは複数で動いてると思うので、作業員に目撃されたことを知った仲間が、無線か何かで戻るよう指示したのでしょう」
“ 私もそう思いますが、その破壊者はエアポートの屋上まで、一気に飛び上がっていったそうなんですよ。半重力ブーツでも履いていたのでしょうか。だとしても、高性能のブーツでもニ十階近くまで一気に飛び上がることは不可能です ”
『「破壊の女神」なら飛び上がれると思うよ』
(そんなこと言えないだろう)苦笑するロイが「何者かが改良版を作成したんでしょう。犯罪にはよく非認可のものが使われますから」
“ はい。我々もその線で考えてます “
「それで、そちらの艦の特殊作業員が清掃に向かったところ、壊されたシャッターはそのままだったのに、倉庫内は跡形もなくなっていたということですが」
“ そうなんですよ! 倉庫内に保管されていたものが全部、跡形もなくなっていたそうなんです! 散らばった液体もすべてです! “
『どういうこと? 誰かが片付けたんだよね? じゃなきゃ、倉庫の中を丸ごとどこかに捨てたとか?』いろいろ考えるシュール。
「どうやって捨てるんだよ。部屋をひっくり返して、洗浄剤で中をジャブジャブ洗ったとでもいうのか?」口元を押さえてシュールに言い返すと『じゃあ、中身だけ、丸ごと別次元に飛ばしたとか?』
「……なるほど。それはあり得るかもしれないな。「破壊の女神」を召喚した奴は、コモンやインサニアのようにバーバスカム語を操れるはずだ。となると、空間を移動することもできるかもしれない。そうなると厄介だぞ」苦虫をかみつぶしたような顔をする。
“ とにかく、倉庫の件は不可解ですが解決したので、今後、どうするかです ” 話を続ける通信担当者。
「そうですね。前にもお話ししましたが、とにかく、不審者に注意することと、発見したら機動部隊を派遣して破壊工作を阻止する、が、今取れる対策だと思います」
“ 確かに、相手がどのような人物なのかわからないので、それが最善策でしょうか。では、機動隊のチームは我々で対応しますので、ロイさん側は、破壊された宇宙船に積み込まれている物資の引き取り作業をお願いいたします “
「承知しました。また何かあれば連絡をください」
“ ありがとうございます。では ”
通信を切るとロイはコーヒーを淹れに席を立ち、戻ってくると、飲みながら各部署から送られてくる報告内容に目を通しはじめた。
『ねえロイ。「破壊の女神」って、三枚目の鍵が保管されてた「水の宮殿」を襲ったサチェルドス・デイ(神の巫女)なんでしょう?』
「そうだよ。確か、バリエガータが宮殿監督庁に捜査依頼を出してたはず。どうなったのか聞きたいけど、今は謎の召喚者を追ってるようだから、コモンから連絡がきたら聞いてみよう」




