23-2 意外な特技
「でも、どうして急にそんなことをおっしゃるんですか?」クラリー夫人が理由を聞いてくるので「これだけの腕を活かさないのはもったいないからですよ。前に環境のいい星があったらそこへ移住すればいいと話しましたが、無職よりも、何かしら商売をしてたほうが移住許可が出やすいんです」
「まあ、そうなんですか?」
「先ほどこちらのご婦人から聞きましたが、有名ブランドの装飾品も手掛けてたそうじゃないですか。その点を強調して売り込めば、興味を持ってくれる会社が増えると思いますよ」
「そうかしら?」顔を見合う婦人たち。
「移住先に行って仕事を見付けるのは大変だと思うので、今から始めて軌道に乗せておけば、生活するのに困らないですよね?」
「そうですね……私たちの年齢を考えると、仕事を見付けるのは難しいですものね」考えるクラリー夫人。
「クラリー、やりましょうよ」一人の婦人が声を掛けると「私たちの長年の夢が叶うのよ」と他の婦人たちも続く。
「そうね……念願の、私たちのブランドができるんですものね。やりましょうか」
「やりましょう!」婦人たちの顔に笑みが浮かぶ。
そして『ヤッター! たくさん作ってね!』こちらも大喜び。
「では早速、仕事場を用意します。材料は今度の補給時に手配しますから、足りない物があったら遠慮せずに言ってください。なるべく揃えるようにします」
「はい。よろしくお願いします」
「そこでお願いがあるんですが、作品をいくつかお借りできませんか? こういう事を始めたいと関係部署の人達に話したいので、見本として持っていきたいんです」
「ええ、どうぞ。今、ケースに入れてきますね」向かいに座っている婦人が席を立つので「ケースも作ってるんですか?」クラリー夫人を見ると「商品を引き立てる、大切なアイテムの一つですからね」笑顔で答える。
少しして、先ほどの婦人が、ロイヤルブルーの小さなケースと大きなケースにいくつかの装飾品を入れて持ってきた。
『きれい! これ欲しい!』
(きたきた。欲しい攻撃が始まったぞ)と思いつつ「きれいなケースですね。これだけでも人目を引きますよ」手に取ると「では、お借りします。そうだ、ブランド名とマークのデザインを考えておいてください」
「わかりました」嬉しそうにクラリー夫人が答える。
部屋から出ると、早速『ロイ、一つ欲しい』シュールがねだってくる。
「まったく、人が話してるのに、あれこれと邪魔してくるんだから」
『だって、あんなにきれいなもの見たら欲しくなるもん』
「まあね、気持ちはわかるよ」
作戦会議室へ行くとマーティを呼び、借りてきた装飾品を見せて仕事の話をすると「本当に手で作ったのか? すごいな」一つずつ丁寧に見ていく。
「シュールが、あれを見せろ、これが欲しいと煩くてさ」
『いいじゃん。本当にそう思ったんだから』
「シュールのお墨付きか」
「宝石類が付けば一個当たりの単価が高くなる。軌道に乗ればいい線いくと思うけど、どうだろう?」
「趣味範囲の素人が作るんじゃなくて、プロの職人が作るんだ。しかも、有名ブランドのアクセサリーも作ってたんだろう? やるべきだ」
「じゃあ、早速プロジェクトチームを作るか」
アッという間にチームができ、着々と進められていった。
さて、肝心の航海は二回のワープをこなし、目的の星まであと一週間というところまで来ていた。
「なんか忙しいな。初回のコンセプトがまだ決まらないというのに、もう目的地まで来たのか」ロイが作戦会議室でタイムテーブルを見る。
「着くまで長いだろうと思ってたが、意外と早いものだな」データを上書きするマーティ。「装飾品販売に集中してたからな」
「シュールも退屈しないで済んだしな」
『うん! すごく楽しい!』
「さあ、本来の目的だ。しっかり準備しよう。追っ手との再会もあるし」
「寝首をかかれないように注意しないとな」
『でも、追っ手って誰なんだろうね』
「あの婆さんの言い方からすると、邪魔者っぽいな」
「僕もそう思うよ」
「邪魔される前に第二の門を見付けないと、厄介なことになりそうだ」
「氷の炎の門か。どんな門なんだろうな」
いつもご愛読いただきましてありがとうございます。
今回で第三章が終了します。
次話より第四章:第二の門編になりますので、引き続きお楽しみください。




