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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
十三章 老い先短い星
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32-2 自分とソックリな敵

 

『ねえ、フェリ。私たち、いつまでここでぶら下がってないといけないの?』


 今から少し時が戻ったころ、「幻想の星」の「時の宮殿」から南に行った砂漠の中、巨大な穴の底にぶら下がっている「大地の宮殿」の責任者である「大地の女神」のナトゥーラが、隣で同じようにぶら下がっている「冥府の宮殿」の責任者である「冥府の王」のインフェリースに文句を言う。


『私たちは数年飲み食いしなくても生存できるけど、この格好でいるのはイヤだわ』


『俺だってイヤだよ。でも……』周りを見ると、不気味な姿の隠者が二名を捕まえようと、枝のような細い腕を伸ばしてくるのでゾッとする。


『うちの執事がそろそろ俺たちを捜しはじめてると思うけど、「空虚(くうきょ)の穴」にぶら下がってるのを見たら、『お助けできませんので、自力でお戻りください』とか言ってほっとかれそう』


『そうよね。まさか、封印されたと噂されてた「陰の神族」の「虚空(こくう)の神」が生存してて、消滅したと言われてた「空虚(くうきょ)の穴」がこんな所に隠されてたなんて、誰も知らなかったんだもの』


『まさか、イムタビリスの氷の館に、「虚空の神」を連れてくる奴がいるとは思わなかったな』

『イムタビリス、「空虚の穴」に落ちちゃったけど、大丈夫……じゃないわよね?』


『この穴に落ちたら、消滅するって聞いてる。また古代神の一柱が消えたことになるな』と寂しそうに穴の底を見るインフェリース。


『それにしても、「虚空の神」を連れてきた男、インサニアとか名乗ってたけど、私たちをこんなところに閉じ込めて、なにをしようとしてるのかしら?』


『まったくわからないけど、ただものじゃないぞ』

『そうよね。私たちを簡単にこんな所に吊り下げるんだもの』


『だよな。それにしても、あんな近くに「虚空(こくう)の神」がいても気付きもしなかったなんて、俺、ボケたか?』


『老化したんだ』

『普通さ、そこは「違うよ」って否定してくれるもんじゃね?』


『だって、フェリはもう古代神の域に突入したんでしょう?』

『トゥーラだって同じだろう? 俺がボケたならトゥーラだってボケたと言われるぞ』


『ちょっと、一緒にしないでよ!』

『一緒だろう!』


『ボケてないと言うなら、ここから脱出できる方法を考えてよ!』

『そんなこと、言われなくとも考えてるよ!』


 言い合いを始めたころ、ブンッ! と、二人の間をものすごいスピードで通り過ぎていく物体が現れた。


『今のなに?』ナトゥーラが、はるか下まであいている「空虚の穴」の真っ暗な底を見ると、またしても、ブンッ! と音を立ててなにかが落ちていく。


『風呂に入ってないから、虫でもたかってきたんじゃないか?』

『フェリだって同じでしょう! きったなーい!』


『なんだと! もう一度言ってみろ!』インフェリースが怒鳴ったとき、ブンッ! ブンッ! ブンッ! ブンッ! と、コンクリートの塊や壊れた看板、窓、ドアなど、あらゆるものが次々と降ってくる。


『なに! どうして壊れた窓が降ってくるのよ! ウワッ!』今度は机が落ちてくる。


『一体なにが起きてるんだよ! ウワッ!』学習塾と書かれた看板が、インフェリースの目の前を通り過ぎていく。『やめろ! 誰だよ!』見上げると、黒いモヤのようなものが頭上にあり、そこから雨のごとく落ちてくる。


 ゴ―――――――ッ、ブンッ! ゴ―――――――ッ。


『……』冷や汗が両名の背中を伝っていく。


 大型トラックが落ちてきたのだ。


『フェリ! なんとかして!』

『やめろ――――――――ッ』


 ヒュ―――――――――――ッ、


 大きなものが二名の目の前を落ちていくので『……あれ、なに?』涙目でインフェリースを見るナトゥーラ。


『俺も直接見たことないけど、たぶん、ファストフード店と呼ばれる店の、看板じゃないかなって思う』


『どうしてこんな所にファストフード店の看板が落ちてくるのよ!』


『俺に聞くなよ……アッ、もしかして……』

『なに?』


『「虚空(こくう)の神」が、どこかの街のガラクタを「空虚(くうきょ)の穴」に捨ててるんじゃないか?』


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