29-2 謎の予告者
「宇宙管理局のような、なにかの軍の上官みたいな命令口調で、腕を組んで立ってました。そして、『黒くて大きな狼の群れが現れたら、黒いマントを着た怪しい男が星を破壊しはじめるから、注意したほうがいいぞ』と言ってました」
「……奴は、ここにコモンが来てることを知ってるのか?」
「エッ、誰ですか?」
「いや、こっちのことだ。それで、そいつは他になにか言ってたか?」
「他にですか?」ドライバーは夢の内容を思い出そうと目を閉じ、しばらくして「そういえば、『エンジントラブルに気を付けろ。事前に対応しないと大変なことになるぞ』と、そう言ってました!」
「その夢を見たのは昨夜だったな?」
「はい、そうです」
「悪いが、俺の上着の内ポケットから携帯を出して、ロイに電話してくれ」
「ロイって、艦長ロイさんですか!」
「そうだ! 早くしろ!」
「は、はい! 失礼します!」運転の邪魔をしないように注意しながら、マーティの上着の内ポケットから携帯を取りだすと、ロイに電話を掛ける。
「マーティ、どうしたんだ?」ロイの声が聞こえてくるので「音声をオープンにしてくれ」
「マーティって……」ドライバーの顔に緊張が走る。「もしかして、副艦長のマーティさんですか!」
「副艦長? 俺が?」
「マーティ、いつの間に出世したんだ?」
「辞令をもらった覚えはないが」
「お、俺、ため口なんかで話して、すみませんでした!」
「別に謝る必要ない。それより、音声をオープンにしてくれないか?」
「はい!」ボタンを押すと「ロイ。今話していいか?」
「大丈夫だけど、なにかあったのか?」
「どうやら、俺たちの脱出を邪魔しようとしてる奴がいるらしい」
「……詳細は?」
「もう一度、夢の話をしてくれないか?」ドライバーに言うと「は、はい!」
「ロイは猛獣でも怪獣でもない。襲わないから心配するな」
「ガウ」
「乗るな!」
「マーティが先に言ったんだろう!」
「だからといって、子供じみたことをしたら緊張感がなくなるだろう!」
「緊張してたほうがいいのかよ!」
「言いわけないだろう!」
「だったら余計なこと言うな!」
「アハハハハハハッ!」大笑いするドライバーが「す、すみません……」と言いつつ笑い続けるので「緊張が取れたか?」
「エッ?」
「落ち着けば、細かいことまで思い出すことができる。話してくれ」
「もしかして、俺の緊張を取るために、わざと?」
「えっと、ドライバーさん、名前は?」
「そういえば、名前を聞いてなかった」
「ナオです」
「ナオさんか。夢の話を思い出すかぎりでいいから、話してくれないかな?」
「はい!」
「だから、ロイは猛獣じゃないと言っただろう」
「マーティ。帰ってきたら話し合おう」
「いつもこんな感じなんですか?」またクスクス笑うので「そうだな。いつもこんな感じだ」
「ありがとうございます。緊張が取れました」ナオは一息つくと、夢の内容を話しはじめた。




