23-1 意外な特技
そして、ブラントたちの影響から、仕事を希望する人達の就業先が決まって落ち着てきたころ、ロイはクラリー夫人の部屋を訪ねた。
「ご機嫌いかがですか? 今日はおいしそうなクッキーがカフェに出てたので、お茶うけに持ってきました」
「まあ、ありがとうございます。さあ、お入りになって。ちょっと散らかってますけど、今、コーヒーを淹れますね」
夫人の招きで中に入ると、アパートに住んでいた婦人たちが来て、ダイニングテーブルで何やら広げて作り物をしていた。
「まあ、どうしましょう。ごめんなさいね。クラリー、もう一つテーブルはないかしら?」手前に座っていた婦人が後を追ってキッチンへ行くので「どうぞお構いなく」声を掛けると「このテーブルを使って」クラリー夫人が隣の部屋から丸テーブルを持ってくる。
「あとは僕がやりますから」丸テーブルをダイニングの横に置くと「何を作ってるんですか?」
ダイニングテーブルの上に金属の破片が散らばっているので、傍にいる婦人に聞くと「装飾品なのよ。無理言って材料をいただいて作ってるの」作ったイヤリングを見せてくれた。
『ワァ! きれい!』はしゃぐシュールの声が頭の中に響く。
「見事な細工ですね」
「私たち、こういう物を作る工場の下請けをしてたのよ。主人も。これで生計を立てていたの。もう作っても納入先はないんだけど、毎日作ってたからここでもやりたくて」
「とても立派な作品ですよ。驚いたな。こんな物が作れるなんて、すごいですよ」
「褒めてもらえて嬉しいわ。有名ブランドのアクセサリーも作ってたのよ」
「そうなんですか? 他のも見せていただけますか?」
「ええ、どうぞ」仕上がった作品が入れてある大きな箱を持ってきて、テーブルに置く。
「どうやったら、細長い金属の棒から、こんな凝った物ができるんですか?」
『お月様の隣のお星様のイヤリングがいい!』
「頭の中で、出来上がった形を想像しながら曲げていくんですよ」
『ハートがたくさん付いてるのがいいかな』
「ブレスレットも作ってるんですか?」
『ロイ! あのお星様のイヤリングを取って!』シュールが話に割り込んでくるので、注意するために剣を叩くと「さあ、コーヒーが入りましたよ」クラリー夫人が隣のテーブルにカップを並べる。
『お星様のイヤリングが見たい!』
「さあ、こちらに掛けてください。おいしそうなクッキーをいただきましょう」
「失礼します」勧められた席に座ると『お星様のイヤリングが見たいの!』諦めないシュール。
もう一度剣を叩くと「どうされたんですか?」クラリー夫人が不思議そうな顔をするので「あ、いえ、何でもありません」慌てて答えると『ケチ!』ブーたれる。
苦笑するロイは「クラリー夫人、ちょっと相談があるんですが。この装飾品、ブランド名を付けて売りませんか?」
「エッ?」部屋にいた婦人たちが一斉にロイを見る。
「こんなに素晴らしい腕をお持ちなのに、それを活かさないのはもったいないですよ」
「私たちが作った装飾品を販売してくださるんですか?」
『くださる、くださる。売って差し上げます!』
シュールが噴き出しそうなことを言うので笑いを堪え「もちろん、です」と答えると「実は、自分たちのブランドを作って、お店に並べてもらうのが夢だったんですよ」クラリー夫人の言葉に他の婦人たちが頷く。
「では、場所や機材、材料はこちらで揃えますから、その夢を叶えてください」
「本当にいいんですか?」婦人たちが身を乗りだしてくるので『いいんです、いいんです。夢を叶えて差し上げます!』シュールのコントが続く。
再び笑いを堪えるロイが「もちろん、です」と答えると『一個欲しい!』(そう来ると思った)予測していた言葉を聞き、ため息を吐く。




