28-4 残された人の救出
「それなら、どうしてロイが先頭に立って指示しないのかしら? そこまでできるんだったら、もっと早く事態を収めることができるでしょう?」
「では、なぜイノンドに全権を任せたと思う?」
「それは……」
「イノンドが宇宙管理局の局員で、しかも、捜索課の課長という役職についてる人物だから、誰も文句を言わず、彼の指示に従ってるんだ」
「……そうね。宇宙管理局を知らない者はいないし、責任者の地位にいる人物が指示することならと、みんな思うわね」
「だからロイは最初からイノンドに情報を提供して、混乱や暴動を起こすことなく、星の崩壊をギリギリまで抑え、大勢の人の誘導をスムーズに行えるようにしたんだ」
「そこまで考えてるなんて、すごいわね。でも、艦の食料を配布してたら、私たちが受け入れた人達の食料が足らなくなるんじゃないの?」
「その心配もない。俺たちが会議室から出た後、再度コモンに連絡して、食料も集めて持ってきてもらうように依頼したはずだ。コモンも、ケガ人には水を、救助した子供たちに、店からもらってきたお菓子を食べさせてると言ってたから、了承してくれただろう」
「どうして私たちが会議室から出た後のことを知ってるの?」
「今度コモンから連絡が来たとき、依頼しようと事前にロイと話し合ったからだ」
「……すごい着眼点。でも、なんで私たちが出た後なの?」
「さっき話しただろう? 他の者に話すなと」
「そこまで考えてたの?」
「無暗に不安を煽ってどうする? 暴動が起きたら、収拾がつかなくなるだろう?」
「……そうね」バーネットは頷くと「私の周りには、スーパーマンがたくさんいるのね」と呟き、左ポケットに手を入れると、リシェルと繋がっているバラのペンダントを握りしめる。
しばらくして、トラックの荷台にいた医者と看護師が心配して降りてきたとき、トラックの周りに停まっている電気自動車の後ろから、カシュカシュという複数の動物の足音と息遣いが聞こえてきて、足を止める。
「なにかが周りにいるみたいなんだけど……」一人の看護師が呟くと、グルルルルッという声が周りから聞こえてきた。
「やっと来たのか。心配するな、迎えだ」と言うマーティの前に、一匹の大きな黒い狼が姿を現すので「遅かったな。待ちくたびれそうだったぞ」
その狼は真っ黒で巨大な体に真っ赤な目をしており、仲間の狼は数十頭はいるらしく、トラックを取り囲んでいるのがわかる。
「コモンは一体、何頭の狼を連れてきたんだ?」
「ちょっと! メチャクチャ大きいんだけど、襲ってこないでしょうね!」バーネットが怯むと「コモンが連れてきた狼だ。そんなことはしないだろう。さあ行くぞ。トラックに乗れ!」
怯えている看護師たちに声を掛けると助手席に乗り、周りをキョロキョロ見ているドライバーに「狼たちのあとを追ってくれ」目の前にいる狼を指さす。




