27-3 動きだす影の存在
バーネットを含む医者や看護師たちが対応していた受け入れ者たちは、予定数より多かったので思った以上に時間が掛かったが、午前九時前には全員収容が完了し、コントロール室では離陸に向けて最終調整に入っていた。
ロイとマーティは、隣接している作戦会議室で、今回の脱出計画の中心となっている、イノンド率いる宇宙管理局から本日の作業についての説明がメールで送られてきたので、目を通していると、疲れた顔のバーネットが入ってくる。
「だめだよ。部屋に戻って休んだほうがいい」ロイが声を掛けると「部屋に戻っても休めないから、ここに来たのよ」少しぶっきらぼうに言って、コーヒーを淹れにいく。
「疲れてるんだろう? 無理するな」マーティも気遣うと「一人でいると気が滅入りそうだから」サーバーからコーヒーを淹れると、中央テーブルのいつもの席に座る。
「そういえば、二時間くらい前に、コモンから、例の「妖精の道」から星内に来たので、取り残された人がいないか、バリエガータと二手に分かれて、確認しながらこちらへ向かうと連絡が来てるよ」
「そうなの。でも、もし取り残されてる人がいたら、どうやってここまで連れてくるの?」
「異次元空間を作って、その中に入れて連れてくるらしいよ」
「エエッ! そんなことして大丈夫なの!」
「今はそんなことに拘ってる場合じゃないと言ってたけど、なにかあったら、僕たちが証言台に立てばいいから」
「……どんな裁判?」
「さあ?」
「でも、残された人を見捨てることはできないから、証言台に立つわよ」
「残された人がいたら連絡をくれるらしいけど、医務局はまだ受け入れられそうかな?」
「そうね……若干の余裕はあるけど、断るわけにいかないから、なんとかするわ」
「ありがとう。毎度のことながら、無理言って悪いね」
「命に関わることなんだから、無理でも何でもやらないと」
『バーネット。バラのペンダント、直った?』シュールがまた違う話題を振ってくるので「エッ? あ、ああ、まだだけど、見直してみたらチェーンを交換するだけでいいみたいだから、落ち着いたらクラリー夫人に頼むつもりよ」
『そうなんだ』
「今までハンカチに包んで置いといたから、ネックレスを引っかけておく専用の台も作ってもらおうと思ってるの。三本の黒い棒に黄色いバラをあしらったものなら、赤いバラのペンダントヘッドがきれいに見えると思うんだけど、どう思う?」
『あ……ああ、黄色いバラにするの? すぐに取れたりしないかな?』
「大丈夫よ。一回り大きなバラにするから」
『一回り大きい?』
「小さいバラと大きなバラがあると立体感があるでしょう?」
『うん……エエッ!』
「それに、一本支えがあるから大丈夫よ」
『……そう、なんだ』
「そういえば、寝不足は解消したの?」
『うん。さっきお腹が空いて、起きたところ』
「無理して俺たちと一緒に起きてるからだぞ」マーティが窘めると『だって、心配で寝てなんかいられなかったんだもん』
「もう少しで星から出られるから、そうしたら、ゆっくり休めるよ」
『ロイたちは寝てないんでしょう?』
「僕たちはニ・三日寝なくても大丈夫だけど、バーネットはきついだろう?」
「医者をなめないでくれる? 私もニ・三日くらいは大丈夫よ」




