26 収容者の受け入れ
その頃、アニスを彼女の部屋に送り、医務局へ戻ったバーネットは、同僚の医師や看護師たちと、戻ってくるトラックが到着する、艦が停泊しているエアポートの搬入口で待機するため、医療器具や担架を積み込んだワゴンを押すロボットのあとから向かっていた。
「救助チームのリーダーから、報告があった予定数より人数が少し多かったそうです」看護師長が送られてきた報告書を確認する。
「こんな時だから、若干のズレはあるでしょう。それは想定内だから問題ない」
リーダー格の五十代の男性医師が答えると「運搬の手伝いを申し出てくれた技術部の作業員たちは、すでに搬入口前で待機してるそうです」男性看護師が掛かってきた携帯電話で連絡を受ける。
「他の宇宙船の不具合を直すために出てたのに、寝ずにサポートしてくれるんだ。感謝しないとな」
エレベーターで最下層へ行くと艦から出て、一番近いエアポート搬入口まで急ぐ。
左隣に停まっているイノンドが乗る宇宙管理局の艦も、少し先に停まっているもう一艦の護衛艦も最下層の運搬用出入口が開き、様々な人や運搬車が出入りしていて、その先に停泊している各宇宙船には、この星の住民が列をなして乗り込んでいるのが見える。
その合間にも、星の最後の鼓動ともいえるような中規模となった地震が起き、その都度、一斉に動きを止め、収まるのをその場で待つ。
その繰り返しが続いている。
バーネットたち医療チームがエアポートの搬入口に着くと、リーダー格の医師がすでに待機していた技術部の作業員たちやほかの部署からの応援員を集め、一連の流れを説明すると、看護師長がチーム分けを行う。
その後、チームごとに搬入口に並んだとき、前方の建物脇の通路から、迎えにいったトラックが列をなして戻ってくるのが見えてきた。
「戻ってきたぞ! 全員受け入れ用意!」先頭にいる若い医師が大声を出すと、目の前に停まったトラックの荷台から、収容してきた住民が降りてくる。
ベルトコンベアのように各チームがスムーズに艦へ運んでいく中、恐怖のために震えが止まらない高齢者や、絶望して大声で泣いている女性など様々な人がいたが「よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ」「さあ、治療したら温かいお茶を飲みましょう」など声を掛けながら運んでいく。
バーネットも、病気やケガのため、自由に動くことができない恐怖で一睡もできない住民に「脱出できる見込みが出てきたから、諦めずに頑張りましょう!」と声を掛け、応急処置をすると運搬担当に引き渡し、次の患者を診るというローテーションを繰り返していた。
しばらくして、あとから数名の医者が応援に来たので、バーネットを含む数名が休憩のため交代すると、ミネラルウォーターをもらって搬入口から少し離れた場所へ移動し、休憩する。
外は疎らにある外灯の明かりだけで星内のため、当然、空に星などの明かりが見えることはなく、空調設備も壊れつつあるため風もなく、生暖かい空気があるだけだった。
それでも、まだ呼吸できるくらいの空気は循環しているらしく、小型の酸素ボンベは携帯しているものの、まだ使うほどではない。
バーネットは一緒に休憩している医師たちから少し離れ、真っ暗な空間をぼんやり見ていると「バーネット」と声を掛けられた。
声のする左奥を見ると誰かが立っていて、右側の路地へ移動する。
その人物が誰なのか、遠くの明かりでかろうじてわかると、バーネットは走って路地を曲がり、両手を広げて待っていた人物の腕の中に飛びこむ。




