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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第一章 旅の始まり
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5 特殊能力

 

  部屋から出て廊下を歩いていると、来たときの疑問が(よみがえ)ってきた。


(やっぱりお師匠様の足音がしない)


 謎はどんどん(ふく)らんでいく。


(靴底に特殊なスポンジでも付いてるとか?)


 いくら考えても納得のいく答えが見付からないので、思いきって聞いてみることにした。


「お師匠様」


「はい。何でしょうか?」足を止めて振り返るので「つまらないことをお聞きしますが、歩くとき、どうしてお師匠様の足音がしないのでしょうか?」


「おや、その事にお気付きになりましたかね?」


「気付きますよ。この静寂(せいじゃく)の中、石の廊下を歩いてるのに、僕の足音しか聞こえないんですから」


「オッホッホッホッホ。お気付になるとは、さすがロイ様ですね。修練を積んだ予言者は、重さを無くすことができるんですよ」


「重さを無くす? どういうことですか?」

「体重という重さを無くすことができるんですよ。修行を積んだ者に与えられる技の一つですよ」


「その技を習得すると、足音を立てずに歩くことができるんですか?」

「そうですよ。宙に浮いてることと同じになりますからね」


「そうなんですか! 予言者の方たちはすごいことができるんですね」


 するとお師匠様は声を(ひそ)め「実は、あの方からいただいた力の一つなんですよ。もしロイ様がお気付きになったら、この力を分けて差し上げようと思ってたんですよ」


「本当ですか!」

「シッ! 声が大きいですよ」


「……すみません、つい」

「それではすぐ済みますから、(かが)んでくださいね」


 小柄なお師匠様の目線まで(かが)むと、(ひたい)に人差し指と中指をあて「いいと言うまで目を閉じててくださいね」


 言われたとおり目を閉じると呪文のようなものを(とな)えはじめ、指が当たっている(ひたい)の部分が熱くなってくるとボール状になり、額から体の中へ入ってくると胸の辺りまで降りてきて、(はじ)けるように消えていった。


「終わりましたよ」

 ゆっくり目を開けると「今の熱いボール状のものは何ですか?」


「さあ、何と申したらよいでしょうかね。強いて言えば、力、というところでしょうかね」

「力ですか?」


「では、歩き方をお教えしますね。目を閉じて、先ほどの熱いボール状のものを思い浮かべてくださいね」


 ロイは目を閉じ、ボール状のものを思い浮かべると、胸の上に浮きでてきた。


「そのボール状のものが(はじ)けて、全身を包むイメージをしてくださいね」


 ボール状のものはすぐに弾け、柔らかい波紋のようなものが全身を包んでいく。


「終わったら目を開けてくださいね」目を開けると「ご気分はどうですか?」

「ああ、大丈夫です。なんかフワフワと浮いてるような感じがしますけど」


「何回か使えばその感覚に慣れますからね。まあ、それが、力が働いてる証拠ですよ」

「そうなんですか」

「さあ、歩いてみてくださいね」


 恐る恐る一歩を()みだすと、足の裏がポワンと弾力のある透明なボールを()んでいるような感触がする。


 さらにもう一歩、また一歩と歩いていくと「すごい、足音がしない。まるで軽い反重力ブーツを履いてるみたいだ」


「では、力をしまうときの方法をお教えしますね」

「ああ、お願いします」


「先ほどと同じく、ボール状のものを思い浮かべて、それを胸の奥にしまうところを思い浮かべてくださいね」


「わかりました。出し入れが意外と簡単なんですね」

「難しいと忘れてしまいますからね」

「確かに」クスッと笑う。


「これは、今回の旅に役立つと思いますよ。なんといっても、水の上も歩けるのですからね」

「本当ですか!」


「シッ、修行者は今も勉強してますからね。邪魔をしないようにしてくださいね」

「こんな時間まで勉強ですか? 大変ですね」

「習得するものがたくさんありますからね」と言って玄関に向かって歩きだす。


(それにしても静かだな。人の気配がまったくない)


 足音がしなくなったので、建物の中が異様なほど静かなことに気付く。

 窓の外を見ると、向かいの棟の窓に(ほの)かな明かりが複数見えた。



 玄関がある大広間まで戻ってくると「ところでお師匠様。もし足音のことに気付かなかったら、浮遊(ふゆう)の力はいただけなかったんですか?」


「そうですね」あのシワクチャな笑顔で答えるので「どうしてですか?」理由を聞くと「気付かない者に、その力の真価はわかりませんからね」


「なるほど。聞いてよかった。本当は聞こうか迷ってたんですよ」


「お部屋へ行くとき、お気付きになられていたでしょう? いつ、どういうふうに聞いてこられるか、楽しみにしていたんですよ」


「気付いてらしたんですか? お師匠様もお人が悪い。その時に教えていただければ、あんなに悩まなかったのに」


「これはロイ様への試験でしたからね。お教えすることはできませんよ」

「試験ですか? 参ったな」


「では、旅の成功をお祈りしておりますよ。どうぞ、良い旅をなさいませ」

「お師匠様もお元気で。いろいろとありがとうございました」頭を下げ「では」玄関から出る。


 来た道を引きかえす途中、見送ってくれるお師匠様に手を振り、車に乗りこむと対策本部へ戻った。


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