16-2 新しいクルー
午前八時。
朝食を取っていると、ブラントが部下の警官五人を連れてやってきた。
「ずいぶん早いな。約束は九時だろう?」
「実は、調書を取る必要がなくなったから、知らせに来たんだ」
「なんで?」
「それが、今日の正午をもって、警察署が閉鎖されることになったんだ」
「警察署が閉鎖? なぜ? それに急すぎないか?」
「仕方ないだろう。昨日、署へ戻ったら政府からの通告書がきてて、そう書いてあったんだから」
「じゃあ、拘留中の奴らはどうなるんだ?」
「もちろん、釈放される」
「何だって! 上界の警察署で引き取ってくれないのか?」
「ここは治外法権なんだよ」
「そんな」
「だから、ビルドたちも釈放される。奴らはあんたらを目の敵にしてるから、きっとここへ押し掛けてくるだろう。だから知らせに来たんだ。早くこの街から出たほうがいいぞ」
「わかった。九時半には出発する予定だから」
「それなら大丈夫だろう」
「刑事さんたちは、これからどうされるんですか?」お茶を出すクラリー夫人。
「まだわかりません。そういえばこの荷物、引っ越し先が決まったんですか?」
「ええ。お陰様で」
「そうですか。それはよかったですね。どうぞお元気で」
「ブラントも早く出たほうがいいぞ。仕返しされるかもしれないだろう?」
「そうしたいんだが、金はないし、行く宛もないから」
「ロイさん」夫人が声を掛けてくるので「わかってます。ブラント、この星から出ないか?」
「ハァ? この星から出る?」突然の話に少し間があくが「出られるものなら出たいよ」
「じゃあ、荷物をまとめてこいよ」
「どういう意味だ?」
「刑事さん。私たちは、ロイさんたちの艦に乗せてもらって、この星から出るんですよ」
「ロイたちの艦?」
「今、旅の途中なんだ」
「そういえば旅行中だと言ってたな。しかし、いいのか?」
「出たいというのなら」
「じゃあ、こいつらもいいか?」後ろにいる五人の警官を指すので「もちろん」と答えると、一番後ろにいる長身の警官が「申し訳ありません! 自分は一緒に行けません!」と頭を下げる。
「何言ってんだ! こんなチャンス、二度とないぞ!」
「自分には寝たきりの母がいます。その母を置いてはいけません!」
「背負ってこい!」
「それでは荷物が持てません!」
「俺が持ってやる!」
「……ブラント課長」
「あの、自分には小さな妹がいるんですが、一緒に連れてってもいいでしょうか?」
今度は一番若そうに見える気弱そうな警官が、遠慮がちに聞いてくる。
「ちょっと待って。今リストに付け足すから、順番に、氏名、生年月日、年齢、住所、同行する家族がいれば家族構成を言ってくれ」タブレットを取り出して画面を開く。
「そんなこと聞いてどうすんだよ」
「IDとパスを作るんだよ。それがないと星から出られないだろう?」
「そりゃそうだけど、そんなものを作れる金なんか持ってないぞ」
「こっちで手配するよ」
「こっちって、一体いくらすると思ってんだ?」
「艦の乗組員としてまとめて申請すると、安く作れるんだよ」
「ヘェ、そうなんだ」
「さあ、順番に言ってってくれ」
ロイはリストに追加すると「パス用の写真を撮るから、一人ずつ壁際に立ってくれ」タブレットの写真機能で一人ずつ撮影していき、写真が撮れない警官たちの家族の分は、彼らの携帯に入っている写真を加工して使うことにした。
「出発は午前十時に延ばすか」腕時計を見るマーティ。「二時間あれば上まで行けるだろう?」ブラントを見ると「そうだな。上層階の手前くらいまでは行けるだろう」
「集合時間に遅れたら置いてくからな」ロイが念を押すと「わかった。急いで支度してくる!」ブラントたちが飛び出していく。




