16-1 新しいクルー
しばらくの間、沈黙があった後「みなさん」ロイが改めて声を掛ける。「この星から出ませんか?」
「エッ?」ルーサンが顔をあげる。
「みんなで、この星から出ませんか?」
集まっている住人たちは話の趣旨が理解できず、キョトンとした顔を向ける。
「どうですか? あの子たちやみなさん。僕たちが連れてきた少年たちも一緒です。出ようという気持ちがありますか?」
住人たちはお互いを見合うと「あります。ここにいたら、いつまで経っても先が見えない」ルーサンが口を開くと「僕たちも行きます。ここにいては、生まれてくる子供にまともな教育を受けさせてやれません」
「私たちも行きます」夫が事故で片腕をなくし、就職できないという中年夫婦の夫人が続く。
「では、出発する準備を始めてください」
「あの、どうやってこの星から出るんですか? 私たちはIDカードやパスポートを作るお金なんてありませんよ」身重の夫人が不安げな顔をするので「僕たちの艦で出るんです。IDカードやパスのことは心配しないでください。こちらで用意します」
「あなたたちの艦ですか?」不思議そうな顔をするクラリー夫人に「僕たちはある目的のために旅をしてるんですが、途中で環境のいい星があったら、そこへ移住すればいい」
「ロイ、いいのか?」マーティが耳打ちしてくるので「シュールを助けてくれた予言者のお婆さんの話を思い出したんだ。『早くここから立ち去れ。みんなでな』きっとこの事を言ったんだと思う」
「なるほど」
「艦は大型艦ですし、設備も整ってます。仲間もきっと歓迎してくれ……まずい! エルに連絡してない!」
「今日は何日ですか?」マーティが慌てて夫人に聞くと「二十六日ですけど」
「やばいぞ。今日出発だ」
「何時出港だった?」
「確か……午後三時半くらいだ」
「急いでパスの手配をしないと間に合わない。エルに頼むしかないが……全然連絡してないからな……」彼の怒った顔が目に浮かぶ。
「どうされたんですか?」慌てる二人を見て夫人が心配そうに聞いてくる。
「実は、市内見物をすると言って出たっきり、一度も連絡を入れてないものですから」
「そうだったんですか。でも、連絡する暇がなかったでしょう? 大変なことが起きたんですからね。訳を話せば許してくれますよ」
「そうだといいんですが……とにかく今日出発するので、急いで荷物をまとめて、午前九時半にはここを出られるようにしておいてください」
アパートの住人がそれぞれの部屋へ戻るために玄関へ行くと、ドアの外に、河に飛び込んだ夫婦がずぶ濡れの状態で立っていた。
「無事だったの!」クラリー夫人が駆け寄って二人の手を取ると「子供たちを……殺してしまいました……」と言って泣きだす。
「大丈夫。子供たちは無事よ」
「……本当ですか?」耳を疑い、聞き返す。
「彼らが助けてくれたのよ」後ろから来るロイたちを見ると「生きてたんですか!」二人が駆け寄る。
「あなたたちは、ベンチに座ってた……」
「なんてことするんですか!」
「ロイ」マーティが止める。
「子供たちの恐怖を考えてください!」
「すみません、すみません」二人して頭を下げる。
「とにかく、部屋へ戻ってシャワーを浴びたら、子供たちに謝って、二度とこんな事しないと約束してください!」
「……はい!」
「今日の午前九時半にはここを出ますから、急いで荷造りしてください」
「荷造り?」
「私たちはロイさんたちの艦に乗せてもらって、この星から出るんですよ。もちろん、あなたたちも一緒に行くでしょう?」
「この星から出る?」
「ええ。さあ、風邪を引かないうちに部屋へ戻って、準備してください」
「はい!」返事をすると、他の住人たちと一緒に外階段を上がっていく。




