15-2 立ち退き要請
居間にある古ぼけたソファに座るマーティが「なんとかならないか?」と聞いてくるので「今、考えてるよ」キッチンで夫人から貰ったハーブティを淹れながら答える。
しかし、いい案が浮かばす、二人はベッドに潜りこんだ。
数時間後、なかなか寝付けず腕時計を見ると、午前二時を回ったところ。
「眠れないのか?」
「なんだ、マーティも起きてたのか」
「ああ」
「マーティは、夫人が気になるんだろう?」
「エッ?」
「夫人と話すとき優しい顔になるから、そう思った」
「……お袋に、雰囲気が似てるんだ」
「そっか。お袋さんは元気か?」
「……二十年前に死んだよ」
「エッ?」
「親父の話では、交通事故に巻き込まれて、治療の甲斐なく亡くなったと。俺はまだ小さかったから親戚の家に預けられたんだが、その後、親父一人じゃ俺を育てられないからと、そのまま親戚の家に引き取られたんだ」
「そうだったのか。そのお袋さんに似てるんだ」
「笑ったときの雰囲気がな」
「そっか。なあ、ちょっと外に出てみないか?」
外は涼しくて心地よい風が吹いている。
二人はアパート横の道に置いてある壊れかけたベンチに腰を下ろし、星の見えない夜空を見上げた。
何分経っただろう。アパートの二階のドアが開き、中から子供を背負った夫婦が出てきた。
子供たちは寝ているらしい。
階段を降りて道路に出てくるとロイたちに気付き、逃げるように河のほうへ歩いていく。
「こんな時間に、子供を背負ってどこへ行くんだ?」
「夜逃げするにしては、荷物を持ってなかったな」
「まさか!」
二人が慌てて追い掛けると、河岸にさっきの夫婦が立っていた。
「やめろ!」ロイが叫んだ瞬間、子供たちを背負ったまま河へ飛びこんだ。
「急げ!」
河岸に着くと、気付いた子供たちが溺れていたので飛びこみ、沈みかけた子供たちを抱えると岸へ戻る。
彼らは相当水を飲んだらしく、咳こんで水を吐く。
背中を擦り、落ち着いたあと河を見るが、親の姿は確認できなかった。
「この暗さじゃ捜すのは無理だ」マーティが首を横に振るので「なんてことするんだ!」ロイが河に向かって叫ぶ。
子供たちをアパートへ連れて帰ると、騒ぎで目を覚ました管理人夫妻やアパートの住人たちが、ずぶ濡れの四人を見て慌てて部屋に入れてくれた。
「一体、何があったの?」シャワーを浴び、着替えて暖かいミルクを飲んで一息つくと、夫人が子供たちに聞く。「あなたたちのご両親はどうしたの?」
聞かれた子供たちは何も答えない。当然だろう。気付いたときは河の中だったのだから。
「時間も時間ですから、子供たちは寝かせましょう」彼らが住んでいる部屋へ連れていく。
子供たちを寝かせて居間に戻ってくると、テーブルの上に手紙が置いてあるのに気が付いた。
宛名は管理人夫妻になっている。
それを持って管理人室へ戻ると、アパートの住人たちが居間に集まっていた。
ロイがルーサンに手紙を渡すと「何だろう」封を切り、手紙を読んでいく彼の顔色が変わっていく。
「あなた、どうしたんですか?」
「それは、遺書なのではありませんか?」
「……そうだ」
「まあ!」顔を覆って夫人が俯く。
「もう少し早く気付いていれば助けられたんですが……」肩を落とすロイに「子供たちだけでも助けてくれた。ありがとう」
「では、ご夫妻は?」縋るような顔を向ける夫人に首を横に振ると、泣き出してしまった。
「みんなこの星の政府がいけないんだ! 私たちを虫ケラのように扱うから!」若い夫婦の夫が吐き捨てる。隣に座っている夫人はお腹が大きい。身重の体。
「この先どうされるんですか?」ルーサンに聞くと「わからない。あの子たちも私たちも」頭を抱える。
この頃になると、空が少しずつ明るくなってきた。




