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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第三章 アグリモニー星
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15-2 立ち退き要請

 

 居間にある古ぼけたソファに座るマーティが「なんとかならないか?」と聞いてくるので「今、考えてるよ」キッチンで夫人から貰ったハーブティを淹れながら答える。


 しかし、いい案が浮かばす、二人はベッドに(もぐ)りこんだ。



 数時間後、なかなか寝付けず腕時計を見ると、午前二時を回ったところ。


「眠れないのか?」

「なんだ、マーティも起きてたのか」

「ああ」

「マーティは、夫人が気になるんだろう?」


「エッ?」

「夫人と話すとき優しい顔になるから、そう思った」

「……お袋に、雰囲気が似てるんだ」

「そっか。お袋さんは元気か?」

「……二十年前に死んだよ」


「エッ?」

「親父の話では、交通事故に巻き込まれて、治療の甲斐(かい)なく亡くなったと。俺はまだ小さかったから親戚の家に預けられたんだが、その後、親父一人じゃ俺を育てられないからと、そのまま親戚の家に引き取られたんだ」


「そうだったのか。そのお袋さんに似てるんだ」

「笑ったときの雰囲気がな」

「そっか。なあ、ちょっと外に出てみないか?」


 外は涼しくて心地よい風が吹いている。

 二人はアパート横の道に置いてある壊れかけたベンチに腰を下ろし、星の見えない夜空を見上げた。


 何分()っただろう。アパートの二階のドアが開き、中から子供を背負った夫婦が出てきた。

 子供たちは寝ているらしい。

 階段を降りて道路に出てくるとロイたちに気付き、逃げるように河のほうへ歩いていく。


「こんな時間に、子供を背負ってどこへ行くんだ?」

「夜逃げするにしては、荷物を持ってなかったな」

「まさか!」


 二人が慌てて追い掛けると、河岸にさっきの夫婦が立っていた。


「やめろ!」ロイが叫んだ瞬間、子供たちを背負ったまま河へ飛びこんだ。


「急げ!」


 河岸に着くと、気付いた子供たちが(おぼ)れていたので飛びこみ、沈みかけた子供たちを抱えると岸へ戻る。


 彼らは相当水を飲んだらしく、(せき)こんで水を吐く。

 背中を(さす)り、落ち着いたあと河を見るが、親の姿は確認できなかった。


「この暗さじゃ捜すのは無理だ」マーティが首を横に振るので「なんてことするんだ!」ロイが河に向かって叫ぶ。


 子供たちをアパートへ連れて帰ると、(さわ)ぎで目を覚ました管理人夫妻やアパートの住人たちが、ずぶ()れの四人を見て慌てて部屋に入れてくれた。


「一体、何があったの?」シャワーを浴び、着替えて暖かいミルクを飲んで一息つくと、夫人が子供たちに聞く。「あなたたちのご両親はどうしたの?」


 聞かれた子供たちは何も答えない。当然だろう。気付いたときは河の中だったのだから。


「時間も時間ですから、子供たちは寝かせましょう」彼らが住んでいる部屋へ連れていく。



 子供たちを寝かせて居間に戻ってくると、テーブルの上に手紙が置いてあるのに気が付いた。

 宛名は管理人夫妻になっている。

 それを持って管理人室へ戻ると、アパートの住人たちが居間に集まっていた。


 ロイがルーサンに手紙を渡すと「何だろう」封を切り、手紙を読んでいく彼の顔色が変わっていく。


「あなた、どうしたんですか?」

「それは、遺書なのではありませんか?」

「……そうだ」

「まあ!」顔を(おお)って夫人が(うつむ)く。


「もう少し早く気付いていれば助けられたんですが……」肩を落とすロイに「子供たちだけでも助けてくれた。ありがとう」


「では、ご夫妻は?」(すが)るような顔を向ける夫人に首を横に振ると、泣き出してしまった。


「みんなこの星の政府がいけないんだ! 私たちを虫ケラのように扱うから!」若い夫婦の夫が吐き捨てる。隣に座っている夫人はお腹が大きい。身重(みおも)の体。


「この先どうされるんですか?」ルーサンに聞くと「わからない。あの子たちも私たちも」頭を抱える。


 この頃になると、空が少しずつ明るくなってきた。


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