15-1 立ち退き要請
ロイとマーティは、ロベージたちを連れて河岸近くにあるお店で盗難防止装置を買い、剣に取りつけてアパートへ帰ると、管理人夫妻が夕飯の支度を整えて待っていた。
シャワーを浴び、サッパリしたところで飲むビールは格別な味がする。
「最高!」
「この味を覚えると、酒は止められないな」
二人の笑顔を見てルーサンが「もう一杯どうかね?」と勧めるので「はい、いただきます」グラスを出す。
「いやあ、最後にこんな楽しい食事ができて、いい思い出になるよ」
「そんなこと言わないでください。またこの星に来たら寄らせてもらいますから」するとルーサンは顔を曇らせ「いや、二度と会うことはないだろう。わしらは、ここから出ていかなければならないんだよ」
「どうしてですか?」
「今度、ストレンジタウンを整備する計画が決まったので、我々は立ち退かなければならないんだ」
「では、どこへ引っ越されるんですか?」
「それは、まだ決まってない」
「立ち退き要請が来てるんだったら、引っ越し先を斡旋してくれるか、立ち退き料が出るはず。どういう話が来てるんですか?」夫人を見ると「ここはもともと政府の土地で、私たちは不法に住んでるということで、立ち退くようにと通達が来たんですよ」悲しそうな顔をする。
「引っ越す金などないし、我々を受け入れてくれるところもない。ここを追い出されたら、行く宛がないんだよ。働くにも私は年を取りすぎてる。就職するのは難しいだろう」
「出ていく期限はいつなんですか?」
「一週間後だ」
「そんな急に?」
「通達は一ヶ月前にきたんだよ」
「……お金があればいいんですよね?」夫人を見ると「そうですけど、私たちだけ他の場所に移ってここに住んでる人達を残していくなんて、そんな事できません。みんな家族のように一緒に暮らしてきたんですから」
「だからここ最近、強盗が増えてね。何とかして金を作ろうと、みんな必死なんだよ」
「殺された人も、僕の剣を売るようなことを言ってたんですよね?」
「だが、盗品だと知らなかったんだ。勘弁してやってくれ」
「わかってます」
「じゃあ、俺たちも追い出されちゃうの?」ロベージが不安そうな顔をすると夫人が頷く。
「あんたたちも街中を見てきたからわかるだろう? みんな金を作って、ここから出ていったよ」
「そうだったんですか。どおりで空き家が多いと思った」
「市場でも、家財道具を運んでる人達が目に付いたな」思い出すマーティ。
「気にはなってたけど、剣を探すのに必死だったから」
「おお、そういえば、その剣は見付かったようだね?」
「はい。それに、殺人犯と強盗も捕まりました」
「そうか。これで彼も浮かばれるだろう」
「さあさあ、湿っぽい話はここまでにして、冷めないうちに召し上がってくださいね」夫人が話を逸らすと「すまんかったなあ。つまらない話をして。さあ、僕たちもたくさん食べなさい」
ロイたちは食後のコーヒーをご馳走になると、部屋へ戻った。




