10 ラディウス・ソリッシュ
目的の店は通りの突き当りに近いところにあり、店の前に立つと『ロイ! マーティ!』シュールの声が聞こえるので、ローマンを降ろしたロイから白いテントの店の中に入る。
「どこだ?」店内を見回すと『正面のところ。剣の柄が袋から少し出てるよ』と言われて正面奥に目を向けると、ハンガーにぶら下がっている細長い布袋から、剣の柄の部分が少しだけ出ているのを見付けた。
ロイは、袋の前で薄紫色の座布団に座っているグレーのコートを羽織った老婆に「後ろのハンガーに掛かってる袋の中の剣を見せてくれませんか?」と声を掛けるとゆっくり顔を上げ「あれが剣だと、どうしてわかるんだい?」と聞き返してきた。
思わぬ展開に「それは……細長い袋に入ってるから……そうだろうと……」(我ながらトンチンカンなこと言ったな)ロイが困った顔をすると「ホホホッ、やっとお迎えが来たようだね」老婆は立ち上がり、袋を取って中から剣をだす。
「どうして迎えが来たとわかるんですか?」不審そうに聞くと「あんたたちの会話を聞いてたからだよ。ほれ、あんたのだろう?」差し出された剣を受け取ると『ローイー!』シュールが泣きだすので剣がキラキラと光りだす。
「ごめん、ごめん。怖い思いをさせて悪かった」
『置いてかれると思った!』
「そんな事しないよ」
「お嬢ちゃん、戻れてよかったね」
「ねえ兄ちゃん。なんで急に剣が光りだしたの? それに誰と話してんの? シュールって誰?」ロベージが不思議そうに聞いてくる。
他の少年たちも、ロイが持つ光る剣を不思議そうに見ている。
「坊やたち。ババがおいしいお茶を入れてあげるから、ここへお座り」
老婆が、ヤギのミルクで作った濃厚なお茶を入れてくれた。
ロイとマーティが老婆の正面に並んで座ると、両端に少年が二人ずつ座る。
「疲れが取れるよ」白い陶器のカップに入れて一人ずつ渡していくので、受け取るロイが「そういえば、お婆さんにはシュールの声が聞こえるんですか?」
「ああ、聞こえるよ。だから、あの男たちから買い取ったんだよ」そう聞いて老婆がただ者でないことを知り、警戒した目付きになる。
「あなたは一体、何者なんですか?」と聞いたとき、独特の匂いが漂ってきた。
「なんだ、この匂いは?」マーティは顔をしかめたが、ロイは初めて嗅ぐ匂いではなかった。
「この匂い。どこかで嗅いだことがあるぞ」考えこむロイの目に、老婆が持つカップの中身が映る。
濃い緑色のお茶。
「そのお茶はお師匠様が飲んでたものだ! では、あなたは、あなたは予言者ですか?」
「そうだよ。あの星から出て何年経つだろうね。ずいぶん遠くに来てしまったよ」
「そうだったんですか。まさか、こんな所でお会いするとは思いませんでした」
「ところで、あの系星で何か起こったのかね?」
「エッ?」
「ラディウス・ソリッシュを持ってるということは、あの方に会いにいくんだろう?」
「ラディウス・ソリッシュ? この剣のことですか?」
「おや、剣の名前を聞いてないのかい?」
「はい。この剣を持っていけと渡されただけです」
「そうかい。では、この剣がどういうものかも知らないんだね?」老婆は考えると「ミルダシアは、私に会うと予言してたのかもしれないねえ」フフッと笑い「この剣の説明をする役目を任されたということだね」座りなおすと「この剣がどこから来たのか知ってるかい?」
「はい。その、ミルダシア、お師匠様から、アミークスと呼ばれる方から預かったものだと聞いてます」
「そう。ミルダシアがあの方からその剣を受け取ったとき、次に来るときは、このラディウス・ソリッシュを持ってきなさいと言われたんだよ」ここで、あの緑色のお茶を飲む。
「ラディウス・ソリッシュとは、この宇宙を創造した古代の神々が、それぞれの力の象徴として作ったと言われてる五つの聖剣の一つで、自然のエネルギーを集め、それをプラズマにして放出すると言われてるんだよ」
「これが聖剣の一つなんですか? 確かにプラズマを放ちますけど」
「もうその剣の力に助けられたんだね?」
「はい」
「しかし、その名を迂闊に口にしてはいけないよ。悪人が持ったら、この世界を支配しかねないほどのものだからね」
「剣の名前を知ってる人が他にいるんですか?」
「もちろんだよ。あんたたちのような若者は知らないかもしれないけど、手をこまねいて隙を狙ってる輩はどこにでもいるからね」
「わかりました。気を付けます」
「それでは、あの系星で何が起きたのか話しておくれ」




