8-2 管理人夫妻
ロイたちがアパートに戻ると、管理人夫妻がみんなの夕飯を用意して待っていてくれた。
テーブルには、ところ狭ましと料理を盛りつけたお皿が並んでいる。
クラリー夫人が汗まみれの姿を見て「お疲れになったでしょう。シャワーを浴びてらっしゃい」と言うのでマーティが「お前ら、先に行ってこい」少年たちに声を掛けると、夫人がお風呂場へ連れていく。
「お前さんたちには、二階に同じ年くらいの息子を持つ家族がいるので、借りてきたよ。これを使ってくれ」ルーサンが二人に着替えを渡す。
少年たちと入れ違いにシャワーを浴びて戻ってくると、クラリー夫人が二人の姿を見て「その服、ちょっと小さかったわね」苦笑して席に案内してくれた。
「さあ、ご馳走とまではいかないが、家内が腕を振るって作った料理だ。たくさん食べてくれ」二人のグラスにビールを注ぐ。
少年たちにはオレンジジュースが出て大喜びしている。
「大勢で押し掛けてすみません」ロイが恐縮すると「気にせんでくれ。私たちには子供がいなくてね。息子がたくさんできたみたいで嬉しいよ」おいしそうにビールを飲みはじめると、クラリー夫人が「こんなに張り切ってお料理を作ったのは久しぶりよ。お夕飯の材料を買いに行ったとき、何を作ろうかとあれこれ考えて、とても楽しかったわ」
「家内のこんな顔を見たのは久しぶりだよ。君たちのおかげだ」
「さあ、お腹が空いたでしょう? たくさん召し上がってくださいね」
「はい、いただきます」ロイがフォークを取ると、待っていたかのように少年たちも「いただきます!」と大声を出して食べはじめた。
少年たちは今日もすごいご馳走が食べられて、とても嬉しそうな顔をしている。
そんな彼らに、マーティは相変わらず作法を教え、行儀よく食べさせていた。
「私の料理、お口に合うかしら?」
「とてもおいしいです。これがお袋の味と言うんでしょうね」ロイが笑顔で答えると「あの、お母様は?」
「母は、僕が五歳のときに亡くなりました」
「まあ、ごめんなさい。余計なことを聞いてしまったわ」
「いいんですよ。気にしないでください」笑顔で答えると夫人は再度謝り「たくさん食べてくださいね」と声を掛ける。
楽しい夕飯が終わると少年たちは用意してくれた部屋へ行き、ロイたちは、食後のコーヒーをご馳走になってから部屋に戻った。
翌日の朝七時に夫人が起こしにきたので顔を洗い、着替えて一階の管理人夫妻の部屋へ行くと、朝食の用意が整っていた。
それぞれ席に着いて食べはじめると、少年たちはマーティの監視の中、作法を守っておいしそうに食べている。
食後のコーヒーを飲んでいると、夫人が二人に新しい服を持ってきてくれた。
「その服では外へ出られないでしょう? これも借り物だけど、いいかしら?」
「ありがとうございます。助かります」服を受け取り「何から何までお世話をお掛けして、すみません」
「いいんですよ。それで、今夜は何時頃に戻ってこられますか?」
「そうですね。昨日と同じ時間になると思います」
服を着替えると、少年たちを連れて私設警察署へ出向く。
その警察署は、以前、工場の事務所だったところを改造して使っているので、設備が整っている大きな建物だった。
玄関の正面にある受付でブラントの名前を告げると、二階奥にある会議室へ行くよう言われ、右奥の階段を指さす。
会議室に入ると刑事たちが席に着いていたので、一番後ろの空いている席に並んで腰掛けると、少ししてブラントが入ってきて会議が始まり、昨日の聞き込みの結果が報告される。
それによると、犯人らしき三人の男たちは街中にある市場へ向かったらしく、今日の捜査方針が決まった。
「犯人は市場で盗んだ剣を売り、大金を手に入れたと思われる」ブラントがホワイトボードの前に立って話しだす。「大金が手に入れば普段と違う行動をとる可能性が高い。今日は、急に羽振りがよくなった人物、及び、急に引っ越しを始めた人物を当たれ」
会議が終わると、刑事たちが一斉に部屋から飛び出していく。
ロイたちも外へ出ると「街中にある市場を片っ端から探せば見付かるだろう」マーティに声を掛け「ロベージ、クレス。大きい市場から案内してくれ」
「こっちだよ」少年たちが歩きだす。




