7 追跡
小さな船着き場が見えてくると、近くで網の修理をしている老人に、昨日、変わった物を拾った人がいなかったか聞いてみる。
すると「昨日は、変わったことも変わった物もあったぞ」興奮気味に話しだした。
「昨日の夕方、突然、大量の魚が河に浮きはじめてね。みんなで慌てて獲ったよ。何が起きたのか不思議だったね。その後、底引き網を回収してた奴の網に妙なものが引っ掛かっとって、また大騒ぎになったよ」
「何が引っ掛かってたんですか?」
「それがな。立派な細工の、それは見事な青い剣だったよ」
「よし! ローマン、お手柄だ!」ロイが彼の頭をなでると嬉しそうに笑う。「で、その剣を拾った人は、今、どこにいるかわかりますか?」
「奴はこの先の赤レンガのアパートに住んどるよ。今日は漁が休みだから、きっといるだろう」奥まった所にある二階建てのアパートを指すので「ありがとうございます。行ってみます」老人にお礼を言うと目的のアパーへ向かった。
そのアパートの前で子供たちを遊ばせているお母さんたちに訪ね人のことを聞くと、二階の真ん中の部屋だと教えてくれたので古びた階段を上り、教えてもらった部屋の前までいくと、ロイがドアをノックするが返事がない。
「出掛けてるのかな?」ロベージがドアノブを回すと「開いてるよ」手前にドアを開ける。
「不用心だな」先に入るマーティが「ロイ!」と呼ぶので、少年たちをドアの外で待たせて入っていくと「ロベージ! 管理人を呼んでこい!」怒鳴るロイの声を聞いて、慌てて下の階へ降りていく。
部屋の中には、血まみれの男が倒れていた。
床に流れた血が乾いているところを見ると、殺されたのは早朝だろうと予測できた。
「とうとう死者が出たか」男の死体を見下ろすマーティ。
そこへ、ここの管理人だという初老の男が入ってきた。
変わり果てた住人の姿を見ると顔を逸らし「なんでこんな事に……」声を詰まらせる。
「現場を荒らしてはいけませんので、部屋から出ましょう」
ロイはみんなを促して部屋から出ると「こんなときに申し訳ありませんが、お聞きしたい事があるんです」
真っ青な顔をしている管理人に声を掛けると「その前に警察を呼んでもいいですか? この下界層には警察署がないんですよ。ですから、ここら辺だけでも治安を良くしようと、住民の間で結成された私設の警察署があるんです」と言って使いの者を走らせ「では、私の部屋へどうぞ」一階にある管理人室へ向かった。
部屋に入ると勧められたソファに座り、名乗ると管理人はルーサンと名乗った。
「早速ですが、昨日、あの人が漁をしてるとき、青い剣が網に掛かったと聞いたのですが」
「はい。私も見せてもらいましたが、きれいな彫刻がされている剣でした」
「彼は、その剣をどうしようと言ってましたか?」
「売るようなことを言ってましたよ。あれだけの剣ですからね。きっといい値が付いたでしょう。その金を持って、ここから出ていくと言ってました」
「では、昨日のうちに売りにいってしまったんですか?」
「いいえ。泥まみれでしたので、きれいにしてから持っていくと言ってました」
「では、まだ彼が持ってるはずですね?」
「そのはずです。今日、売りにいくと言ってましたから」
しかし、部屋の中に剣はなかった。
「早朝ですが、何か不審な物音を聞きませんでしたか?」
「さあ。私はぐっすり眠ってましたので。ああ、お前、ちょっとこっちに来なさい」部屋に入ってきた初老の女性に声を掛け「妻です」と紹介した。
そこへ、呼びにいかせていた使いの者と一緒に、私設警察の刑事と鑑識が数名きて、鑑識員が検分を始めると、刑事が事情聴取を始めた。




