6-2 ストレンジタウンの少年達
その日の夜。
ロイとマーティは交代でダイヤースの看病にあたり、少年たちは二手に分かれて付き添うことになった。
夜が明け、外が騒がしくなってきたころ「熱が引いたよ。もう大丈夫だろう」体温計を見る先生がホッとした顔をするので「良かった」ロベージたちの顔に笑顔が浮かぶ。
「先生、ありがとうございます」ロイがお礼を言うと、薬を出すので一緒に薬局まで来るよう言われ、朝食の買い出しを兼ねてロベージと向かった。
薬局に着くと諸々の費用を払い、薬を受け取ると再度お礼を言って薬局から出て、近くのお店で朝食の材料を買い、クレスの家に戻ると朝食の支度を始める。
テキパキと料理をするマーティを見て「兄ちゃんうまいな。料理人なの?」少年の一人が聞いてくるので「一人暮らしが長いから、作れるだけだ」
「俺、将来、料理人になりたいんだ。うんと腕を磨いて、貧しい人達においしいものを作ってあげたいんだ」
「いい心掛けだ。頑張れ」
「ロベージ! クレス!」ロイが呼ぶので部屋に行くと、ダイヤースが手を振ってきた。
「気が付いたのか!」
「心配したんだぞ!」
少年たちがベッドの周りに集まって声を掛ける。
「できたぞ。運ぶのを手伝ってくれ」今度はマーティがキッチンから呼ぶ。
ベッド脇にテーブルを運び、買ってきた紙皿にパンやハムエッグを並べ、みんな揃ったところで食べはじめる。
「うまい! こんなうまいもの初めて食った!」
「最高!」
「取らないから、ゆっくり、きれいに食べろ」マーティが注意する。
「俺さ。昨日、兄ちゃんたちとディナーセットを食ったんだぜ」ロベージが得意げに話すと「本当かよ! ズルいぞ!」他の少年たちが羨ましそうに大声を出す。
「あの店は小料理屋だから、ディナーセットとは言わないぞ」言い直すロイが手際よくサンドイッチを作ってダイヤースに渡すと「俺たちの間では、豪華な食事のことをそう言うんだ」説明するクレスが「これが本当のオレンジジュースなのか。うまいな」目を輝かせ、少しずつ飲むので「ちゃんとしたものを飲んだことがないのか?」驚くマーティ。黙りこむ少年たち。
「あ、いや、すまない。悪いこと言った」
「俺たちが飲んでるのは、捨ててあるボトルの底に残ってる、少し酸化しちゃったものだけだよ。それも、運よく見付けられたときだけ」
「ここじゃ、俺たちを雇ってくれるところなんかないから、金稼ぐの大変なんだ」持っているサンドイッチを見るロベージ。「鉄クズを集めて、それを買い取ってもらうくらいしかないんだ。一日頑張って集めても、小さなパン一個買うのがやっとでさ」
「……そうか」手が止まるロイとマーティ。
「俺たち孤児だから、こうやって、誰かが作ってくれた料理をみんなで食べるなんて経験したことないんだ。だから、今日はとっても嬉しい」料理人になりたいと言っていたヘンリーが笑顔を見せる。
「兄ちゃんたち、どうしたんだよ。黙りこくっちゃってさ」クレスが口の周りにオレンジママレードをベットリ付けているので「拭け」マーティがティッシュを出すと「いいよ。もったいない」ペロペロと舐めはじめる。
「行儀悪い。ちゃんと拭け」再度ティッシュを出すと「ハーイ」素直に受け取って拭きはじめる。
「兄ちゃん、次のサンドイッチが欲しい」ベッドのダイヤースがロイの上着の袖を引っぱるので「あ、ああ。次は何をはさもうか」
「ハムがいい!」一緒に野菜とチーズをはさみ、マヨネーズをかけると「なくならないから、ゆっくりよく噛んで食べるんだぞ」
「うん!」受け取ると、味を噛みしめるように食べはじめる。
お腹が空いているはずなのに、食が進まない。
手を止めるロイに「ちゃんと食べとけ。これから忙しくなるんだぞ」声を掛けるマーティが「クレス、これはこうやって食べるんだ」と作法を教えだした。
「ご馳走さまでした」お腹いっぱい食べられて、満足そうな顔の少年たち。
「さあ、片付けたら剣を探しにいくぞ」マーティが席を立つと「俺、手伝うよ」一番背の低いローマンが紙皿を重ねはじめ、その言葉をキッカケに他の少年たちも動きだす。




