5-2 剣の行方
薄暗い電灯がまばらに点いている通りに出ると、両側から安酒とタバコの匂いが入り混じった独特の匂いが漂ってくる。
その通りを進んでいくと、街角に佇んでいるコールガールが「いい男が二人もいるわ。私と遊んでいかない?」と擦り寄ってくる。
「悪いけど他をあたってくれ」ロイが絡めてくる腕をどけると「私ってそんなに魅力ない?」顔を近づけてくるので「それだけ魅力があれば、他の男が相手してくれるよ」顔を背けると「あなたに相手をしてほしいの」と諦めない。
「ロイ、何とかならないか?」マーティが助けを求めてくるので「ロベージ。店はまだなのか?」道の端っこに追いやられている彼に聞くと「もうちょっと先だよ」進行方向を指すので「マーティ、走るぞ!」絡めてくる腕を振り切ると、ロベージのあとを追って走りだす。
追ってこられないところまで走ると「左側のボトルの看板が出てる店だよ!」ロベージが指さすほうに目的の看板があり、その前で止まる。
「食べた後、すぐ走るのは体に良くないな」胃の辺りを抑えるロイ。
休憩して呼吸を整えると店に入った。
空いているカウンターにロベージを挟んで座り、コーヒーとホットミルクを注文する。
「チンピラの名前はなんで言うんだ?」ロイが店内を見回しながら聞くと「ベルドとカードーンだよ」
少しして頼んだものを運んできた店員に「ベルドとカードーンはまだ来てないのか?」何げない口調で聞くと「そういえば、今日はまだ姿を見せないね」
「アイツらなら追い駆けっこしてたぜ」ロイの一つ席を空けた右隣に座っている、痩身で作業着を着た中年の男が話し掛けてきた。
「何を追い駆けてたんだ?」
「ガキさ。ブツを返せと大声出して、ストレンジタウンのほうへ走ってったぜ」
ロイの左横では、ロベージがおいしそうにホットミルクを飲み、その隣でマーティが眉間にしわを寄せて座っている。
「そのガキは何を持ってたんだ?」話を続けるロイがコーヒーを一口飲むと「ブッ!」と噴きだすので「アハハハハッ! この店でコーヒー頼むなんて間違ってるぜ!」大笑いされたのでムッとすると「ベルドから、うまいから飲んでみろと言われたんだ」紙ナプキンで口の周りを拭く。
「引っ掛かったな」
「うまくしてやられたよ」苦虫を噛みつぶしたような顔をすると「ああ、そのガキだが、布に包まれた細長い物を抱えてたぜ。あの形からいくと、剣のようなものじゃないか?」
(見付けた!)
「アイツらが必至になって取り戻そうとするなら、きっと上物だろうな」話を合わせると「それも相当なものだろう」
男はロイをベルドたちの仲間だと思ったらしく、話に乗ってきた。
「そのガキ、どんな格好してたが覚えてるか?」
「聞いてどうするんだ?」
「決まってるだろう。コーヒーの仕返しをするんだよ」ムッとしてカップを持ち「やられっぱなしで黙ってられるか」怒ってみせると「俺が教えたなんて言うなよ。とばっちりはごめんだからな」渋い顔をする。
「言うわけないだろう。黙ってるから教えてくれよ」
「本当か?」
「もちろん」
「……わかった。赤いリボンが付いたカンカン帽をかぶってたぜ。髪は黒。隣の坊主くらいの年だったな」
「サンキュウ。これで仕返しできる」
「これに懲りて、奴らの口車に乗るなよ」
「ああ。お礼に一杯奢らせてくれ。マスター、彼に同じものを頼む」声を掛けると手を上げるのでお金をカウンターに置き「ゆっくり飲んでってくれ」男に声を掛けると、自分たちの分も置いて店から出た。




