4-2 質屋巡り
「見事な彫刻だろう? きっと凄腕の細工師の作品だろうね。それに、幻と言われてるシルバーバイオレットの水晶がこの大きさで使われてるなんて驚きだよ。しかも、違うデザインの細工物が二つあるところがすごいだろう?」
「これ二つでいくら?」
「たくさん買ってくれたから考えるけど、安くしたとしても、相当金を持ってないと買えないよ」
「で、安くていくら?」
「そうだな……二つで七千万、てところだな」
「ハ?」
「ひとつ三千五百万。これでもだいぶ安くしてるよ」
「いくらなんでも桁が多いだろう!」マーティが吹っ掛けられたと思い、切れ気味になる。
「さっきも言ったように、この宝石は幻と言われてるほど希少価値が高いんだよ。さっきのペンダントの目にも使われてたけど、こっちのブレスレットは、さらに大きいものを含めて数個使われてる。どこで採掘されたのか教えてほしいくらいだよ」
「だからといって、ブレスレット一つにその値段はおかしいだろう!」
「お客さん、この宝石の価値を知らないね。ネットで調べてみな。出てるから」
そう言われてロイがバックからタブレットを出して調べると、採掘元不明の鉱石として、数点が存在する希少宝石と出ていた。
「採掘元不明だとさ」
「まあ、驚きはしないな」
「どうする? 七千万を盗まれて、それを買い戻す必要あるか?」
「ないだろう」
「しかし、僕たちのものだという証拠がない」
「あるぞ」マーティがバックからタブレットを出して、保存されている写真を見せる。
「これは、出発前に行った影の森であの二人に会ったとき、みんなで撮った写真じゃないか」
「そうだ。あの後、セージから送られてきただろう?」写真をめくっていくと、ミルたちと一緒に写っている写真に、それぞれ腕に着けているブレスレットが写っている。
「日付も入ってるしアルバスたちのブレスレットも写ってるから、同種類のブレスレットとして証拠になる」
「よく気付いたな」
「目立つブレスレットだからな。写真を見たとき、証拠写真だとセージと話してたのを思い出したんだ」
「さて、どうする?」
「これを警察に持っていけば、盗品を売ったとして、店は取り押さえられるだろうな」
「お客さんたち、何者なんだよ」話を聞いていた店主の顔が青ざめる。
「話を聞いててわからないか? 僕たちは盗まれた物を取り戻してるんだよ」
「そのブレスレットは俺たちの物だ」写真を店主に見せると「ほかにもブレスレットがあるのか?」
「そっちか」
「わかったよ。でも、警察は勘弁してくれ。それに、俺も大金を出して買ったんだ。その対価がないと店が潰れてしまうよ」
「現金取引なんだろう?」ロイが確認すると「この世界は全部現金取り引きだよ。振り込み記録なんて危ないものは残さない」
「しかし、帳簿は付けてるはずだ。本当に七千万払ったのか見せてもらおう」とマーティが言うと「それは……」
「ぼったくったんだろう?」
「安く買い取ったのか。では気兼ねなく返してもらおう」マーティがブレスレットを取ると「それでも三百万は払ったんだぞ!」店主は奥から帳簿を持ってくると、買取欄に記載されているブレスレットの項目を見せるので「三百万は本当らしいな」確認するロイ。
「それにしても、本当にブレスレットに付いてるこの石は、希少価値がある宝石なのか?」マーティが宝石を見ると「それは俺が保証するよ。鑑定項目に則ってきちんと調べたからな」
「なら、その言葉を信じよう」左腕にブレスレットをはめる。
「このまま持ってくのもしのびないから、これを二つ置いてくよ」ロイがバックからまた布袋を出してブローチの箱を二つ取りだし、ショーケースの上に置くと店主はルーペで品定めを始め「いいのかい? お得意様にこういう細工物が好きな人がいてね。きっと喜ぶよ。それに、さっきのネックレスもそうだったけど、金の質が最高クラスだよ。これで十分だ」
店主が満足そうな顔をするので、それを機に店から出た。




