3-1 事件発生
街中に出ると、様々な人種がたくさんいることに驚かされる。
「分岐点だけあって、すごい人だな」人の波に少々うんざりするマーティ。
商談でもしているのか、建物の内外を問わず立ち話をしている人が目立つ。
「そういえば、あまり治安が良くないから、持ち物には気を付けろとエルが言ってたな」
「見るからにそんな感じの所だ」と言ったとき、ガタイのいい男がロイにぶつかり「どこ見て歩いてんだ! 気を付けろ!」と怒鳴って去っていく。
「ロイ。大丈夫か?」
「警備員さん。その男、今、僕からパスケースを掏ったので捕まえてください」
近くのビル前に立っている警備員に声を掛けると、付近にいた人達が一斉に端によるので「畜生!」ロイにパスケースを投げつけて走り去っていく。
「大丈夫ですか?」警備員が駆け寄ってくるので「お手数をお掛けしました。お陰で助かりました」パスケースを拾ってポケットにしまうと「ここら辺はスリが多発してるので、歩くときは十分注意してください」事なきを得たので、警備員は注意して持ち場へ戻っていく。
「ウワサどおり、物騒な所だな」
「いや、ロイも大したものだぞ」
「そうか?」歩き始めたとき、背中に硬いものが押し当てられた。
後ろを向うとすると「前を見てろ」男の声が「そのまま右側の路地へ入れ」と耳元で言うので「またかよ。どうするマーティ?」
「ここは言うとおりにしたほうがよさそうだ。背中の硬いものは、高熱のレーザーを発する本物らしい」
誘導されるまま路地へ入るといきなり後頭部を殴られ、その場に倒れた。
「兄ちゃん、兄ちゃん! 起きてよ!」
体を揺すられて目を開けると、十二・三歳くらいの少年が、心配そうな顔をしてのぞき込んでいた。
「イタタタタッ」後頭部がズキズキする。
頭を押さえながら上半身を起こし「マーティ、大丈夫か?」声を掛けると「何とか……」頭を押さえながら起き上がる。
後頭部を確認すると「アーア、すごいコブができてるよ」
「ずいぶんと荒っぽいことをするな」後頭部の痛いところを撫でるマーティ。
「兄ちゃんたち、何か盗られてない?」少年に聞かれてポケットを確認すると「パスケースがない! IDパスも携帯も、腕時計や指輪もないぞ。アッ! ソレルのブレスレットがない!」
「しまった! 一角獣のペンダントがない!」
「兄ちゃん。細長いものを持ってただろう?」ロイに確認するので「細長いもの? いや」
「この位の長さのものだよ」少年が両手を広げる。
「そんな長いものは持ってないぞ」
「ロイ、剣はどうした?」
「それは、短剣の長さになって内ポケットに……ない! シュール!」
「盗られたときに元の長さに戻ったんじゃないか?」
「そうかもしれない」
「まいったな。根こそぎ持ってっいかれたぞ。とにかく警察へ行こう」さすがのマーティも、この時ばかりは顔色を変える。
ところが「行っても無駄だよ。こんなこと日常茶飯事だから、たぶん出てきませんよって言われるだけだよ」と少年に言われ、絶句する。
「マーティ。ここは冷静に考えよう。携帯は追跡機能が付いてるから追えるだろう。IDパスは届けよう。どういうふうに偽造して使われるかわからないけど、どこかで引っ掛かる可能性がまったくないわけじゃない」
「ICカードの盗難届もだ。大した額は入ってないが、口座を封鎖されてしまう恐れがある」
細工したカードを使ったことがわかると、自動的に口座が封鎖されてしまう。
「じゃあ、一番近い警察署へ案内するよ」少年に付いていくと盗難届を出した。
「パスとカードは手配しますが、盗られた品物は、まず出てこないと思ったほうがいいですよ。ああ、携帯は追跡機能が付いてれば探せるでしょうね。暗証番号は設定してますか? 他のものが諦められないというのであれば、質屋を片っ端から当たるんですね。運が良ければ、幾つか見付かるかもしれませんよ」
少年に言われたことを、そっくりそのまま言われてしまった。




