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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第一章 旅の始まり
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3-2 予言者の修行場

 

 お師匠様は廊下の突き当りまでいくと右側の部屋に入り、黒檀(こくたん)でできたテーブルにロイを案内する。


「ウワッ! すごい量の本ですね!」


 壁一面にびっしりと本が収められていた。


「ここは何の部屋ですか?」近寄って背表紙を見ると、見たことのない文字が書かれている。


「ここは長老の部屋ですよ。私を含め、一握(ひとにぎ)りの者しか、この部屋のドアを見付けることができないんですよ」


「ドアを見付けることができない?」意味がわからず困った顔をすると「あのドアは、一部の者にしか姿を現さないんですよ」入ってきたテーブルと同じ黒檀(こくたん)でできたドアを指すので「では、この本に書かれてる文字も、その、一部の人にしか読めないと」


「勉強すれば読めますが、かなり修練(しゅうれん)を積んだ者にしか読めませんね。予言者が使う古代文字の一つですからね」


「そうなんですか。僕には幾何学模様(きかがくもよう)にしか見えません」

「ホホホッ。そうでしょうね。さあ、お掛けくださいね。コーヒーをお()れしますよ」


 部屋の右奥にある小部屋へ入っていく。



 ロイが手前の椅子に腰掛けると、テーブルの端に古びたハードカバーの本が置いてあり、何気なくタイトルを見ると「レジーナ・マリス」と書いてある。


(なんでこの本の文字だけ読めるんだろう?)


 不思議に思っているとお師匠様がコーヒーセットを持ってきて、カップに注ぐとロイの前に置く。


「あれ? どうして僕がブラックで飲むのをご存じなんですか?」


 ミルクや砂糖、スプーンでさえソーサーの上にない。


「お忘れですかね? 私は予言者ですよ。そのくらいわかりますよ」


「ああ、そうでしたね。あ、そうしたら、今日、僕が訪ねてくることもおわかりだったんですね? だから入り口のところにいらした」


 お師匠様はニッコリ笑うと「ところで、この老婆に何をお聞きにいらしたんですかね?」

「どんな事か、(さっ)しが付いておられるのではないですか?」


「まあ、今回の事態の解決についての助言、というところでしょうかね」

「そのとおりです。先ほど父に呼ばれまして、今回の石化現象の報告を聞いたんです」


 執務室(しつむしつ)で話した内容を()(つま)んで話し「その時ニネが、予言者の間で伝わってる古い口伝(くでん)の一つを話してくれたんです」話の続きと、なぜここに来たのかを伝え「それで、アミークスと呼ばれる人物は存在するんでしょうか?」


 すると、お師匠様はなぜか困った顔をして、黙ってしまった。


「あの、お師匠様?」


「困りましたね」小さくため息を吐くと「この話は聞かなかったことにしてください、と申し上げたら、(あきら)めてもらえますかね?」


「どういうことですか?」

「訳を聞かず、お帰りいただくことはできませんかね? とお聞きしたんですよ」


「どうしてですか?」

「ファルネス系の運命が掛かっているのはわかりますが、無理ですかね?」


「どうしてなのか、理由を聞かせていただけないと納得できかねます」

「そうですよね」


 しばらく沈黙(ちんもく)が続いたが、(あきら)めたように「わかりました。お話しましょう。実は、存在を明らかにしてはいけない方なんですよ」


「どういうことでしょうか?」

「言葉のとおりですよ」


「なにか、危険人物とかですか?」

「いいえ、その逆ですよ。悪い(やから)に知られたら大変なことになるお方なんですよ」


「そんなに特殊な人なんですか?」

「まあ、ある意味、そうなりますかね」


「わかりました。では逆に、どんな事なら教えてもらえますか?」


「ですからね……」ため息を吐くと、引き下がることはないだろうと(あきら)め「ニネも困った話をしてくれましたね」と肩を落とす。


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