22-1 不都合な結果
次の日から、街中がざわめいていた。
令嬢たちの家の使い者が、鉢植えを市民に配り始めたからだ。
室内は空気清浄器でなんとか有害物質を取り除ける状態なので、部屋の中から植物を増やそうということである。
一般住居のほか、商業施設や公共施設にも順次配られていく。
これで、殺風景な室内が華やかになっていくだろう。
そんな中、ロイは統治者のルズロフに呼ばれて、彼の屋敷に出向いていた。
しかし、応接室に通されると驚くことを聞かされた。
石化ウイルスに関する資料がまったくないというのだ。
「どこを探しても、誰に依頼したのか、どのようなウイルスなのか、削除した痕跡すらないんです」ルズロフが申し訳なさそうに頭を下げる。
「そんな……」ロイは絶句した。
「つきましては、現状の把握と、石化したものを元に戻すための研究を始めるため、ファルネス系に出向き、謝罪と情報交換をさせていただきたいと考えております」
一縷の望みが絶たれたショックと突然の提案に、自分ひとりでは決められないので、相談してから返事をすると約束し、艦に戻った。
「どうして資料がないんだ!」自室に戻ったロイはソファに座ると考えこんだ。
「フォーテュムには花に関係する記憶だけを消すよう依頼したはず。情報や状況はそのままなのに、どうして石化のことだけが消えてるんだ!」
『フォーテュムが消したんじゃないとしたら、その前に誰かが消したんだと思うけど……』
「誰が消したんだ!」
『それは、わからないけど……』
「ああ、怒鳴って悪かった……」
『もしかしたら、犯人は、別にいるのかも……』
「そう考えるのが妥当かもしれないな。となると、統治者たちは利用されたのか?」
『でも、誰がそんな事するの?』
「わからない。しかし、資料がないとなると、アミークスに会うために、第二の門へ行くことになるのか?」考えるロイ。
その日の夜、父親には犯人がわかったと前に知らせていたが、今回は、肝心の石化ウイルスの情報がまったく残っていないことと、真犯人が他にいる可能性があること、先方の統治者から、訪問したい旨の新たな申し出を受けたと、追加の報告を入れた。
“肝心なことがわからないか。それは残念だ”期待していただけに、落胆の度合いが大きい。
また、ニネが毒を飲まされて死に掛けたこともあり、利用されていた可能性があるとはいえ、訪問の依頼も素直に返事をすることができない。
“明日、返事をする”と言われて通信が終わった。
そして、マーティに同様の連絡をし、第二の門へ行くことになるかもしれないため、同行する件を検討してほしいと改めて話した。
次の日の夜。
父親から申し出を受けると返事がきた。
ニネに説得されたのだという。
「今の状態をじかに見てもらい、一刻も早く、石化したものを元に戻す方法を見付けるサポートをしてもらおうと言われ、決心した」
あとは直接本人と話すので連絡先を伝えるよう言われ、代わって出たニネにあとのことを頼むと、通信を切った。
翌日。
統治者のルズロフ家へ電話をかけ、申し出を承諾したことを伝えた。
そして、統治者の父が直接話すと言って連絡先を伝えると、先方は驚きのあまり、しばらく黙り込んだ。
ロイが石化させたファルネス系統治者の息子ということに気付き、絶句したのである。
息子を寄越すほどひどい状況なのかと悟ったらしく、何度も謝罪の言葉を口にするため、他の者は知らないので黙っててほしいと言うと口外しないと約束し、早速、連絡すると言って電話を切った。




