40-2 進行の確認
午後八時。
モスカールが借りた東の塔の十階にある簡易ホテルの部屋に、一同が集まっていた。
向かい合わせに置いてある右側のソファに座る主が『ルー、バーネット、お疲れさん』声を掛けると「疲れ過ぎて、明日は全身筋肉痛になりそうよ」備え付けのカウンターで人数分のコーヒーを用意しているルーとバーネット。
『それはいかんのう。ちゃんと薬を塗るんじゃぞ』
「もうたっぷり塗ってあるわ」
「それで変な匂いがするのか」主の左隣に座るマーティが眉間にしわを寄せるので「悪臭を放ってすみませんねえ。もう一回言ったら、埃の中に放りこむわよ」
「今のは聞かなかったことにしてくれ」
『バーネットはモスカールみたいに強いんじゃなあ』
『私がなんだって?』一人掛け用のソファに座る進行役のモスカールが睨むと『いや、悪い意味で言っとるんじゃない。自分の意見をきちんと言うのは、いいことじゃと言っとるんじゃよ』
マーティの向かいに座るグリークが『兄貴、気を付けねえと』と言うと『気を付けないと?』モスカールが言い返すので『俺も気を付けます』
「マーティがバーネットのご機嫌をとるのには、訳があるんですよ」グリークの右隣に座るロイが、三人のやり取りがおかしくて笑うと『その訳とはどんなことじゃね?』
「すぐにわかりますよ」
そこへ、バーネットがコーヒーを落としはじめるので、いい香りが部屋中に漂う。
「ホゥ、いい豆が手に入ったようだな」早速マーティの分析が始まる。
「ああ、いい香り」ロイも嬉しそうにカウンターのサーバーを見る。
『こういうことを言う奴って、味が気に入らねえと必ずウンチク言い出すんだぜ』
「すごいわ、グリーク。どうして、わかるの?」主の向かいに座っているアニスが隣のグリークを見ると『俺も同じだからさ』ニッと笑う。
「バーネットが淹れたコーヒーを飲むと、他のものが飲みづらくなるから困る」
『ホゥ、それが理由か。では、バーネットはコーヒーを淹れるのが上手なんじゃな?』
「ある王宮専属のバリスタから直に教わったそうですよ」ロイがフォローすると『なんと! それはすごいのう!』
『だから煩いマーティにそこまで言わせることができるのか。 バーネット、早く俺にもくれよ』手を出すと『わしにもくれんかのう』主も手をだす。
「なんか、煩い人、増えてるよう、気がする」二人を見るアニスにモスカールが小声で『この二人も味に煩いんだよ』と言うので「まあ、そうなん、ですか?」
サーバーに落ちたコーヒーをカップに入れてルーが順番に渡していくと『イヤイヤ、驚いたのう』
『オッ、本当にうめえぞ』
『これで、主たちもバーネットに頭が上がらなくなったね。でも、本当においしいよ』二人の顔を見るモスカール。
『こんだけの腕を持ってんだ。仕方ねえな』
『この腕は貴重じゃぞ』
「まあ、いいこと聞いたわ」
「バーネット、早く俺たちにも淹れてくれ」マーティがしびれを切らすので「もう少し待ってて」
「今日は待つのが辛いぞ」隣のグリークが持つカップを見るロイ。




