35-2 情報交換
『ところで兄貴。俺たちの正体がバレるようなことは書いてねえだろうな?』
『当たり前じゃろう。わしがそんなドジを踏むと思っとるのか?』
『そうは思ってねえけどよ。念のために聞いただけだよ』
『そうそう。これが二人の素性じゃよ。出発前に頭に叩き込んどくんじゃぞ』二人にメモ用紙を渡すと『俺たちが兄弟? どう見ても無理だぜ』
『そうかのう。よく似たキャラじゃから、みんな納得すると思うが』
聞いているアニスが笑うので『何だよ。なに笑ってんだよ』
「ごめん、なさい。でも、モスカール、同じこと、言ってた、から」
『何だって?』モスカールを見ると『尋ね人と似てると言われるのが、そんなに嫌か?』
『そんなことねえけどよ』
『じゃあ、いいじゃないか』
『……わかったよ。で、出発はいつなんだ?』
『明日の昼じゃよ』
『どこへ行けばいいんだ?』
『ここに詳細が載っとる』別の紙を渡すと『集合場所は、南の塔の裏にある倉庫じゃ。食事が終わったら必要書類を作って受付窓口にデータを送っとく。書類のコピーはあとで持っていくから、試験会場で待っとれ』
『何時頃になんだ?』
『そうさのう。二時過ぎになるかのう』マーティを見ると「そんなところだ」
『それと尋ね人。あんたは少し変装したほうがいい。髪を隠す必要はないが、帽子やメガネなどで雰囲気を変えておいてくれ。これから偽物と会うじゃろうからな。同じ顔がいたら周りが混乱するじゃろう』
「ああ、そうですね。わかりました」
『グリーク、何か見繕ってやれ』
『わかった』
『ところで、主のほうはどうなんだ?』モスカールが状況を聞くと『今、宮殿内の機能がどうなっとるか、調べとるところじゃよ』
宮殿内の機能をこちらが握れば、中にいるインサニアは袋のネズミである。
「奴もコンピューターを操ってるだろうから、見つかる恐れがあるんじゃないですか?」ロイがリスクを考えると『じゃから、マーティに頼んだんじゃよ』
「なるほど」
『となると、問題は、奴の居場所がわかんねえってことか』とグリークが言うので『なんじゃって? 例の鏡はどうしたんじゃ?』モスカールを見ると『鏡は全部、冬眠中だ』
『どういう意味じゃ?』
「実は」アニスが訳を話すと『なんじゃと! それは困ったのう』
「使えないのであれば仕方ない。他の手を考えるしかないだろう」と言うマーティに「何か、案、ある?」
『コンピューターで警備状況を調べ、どこにいるか割り出すしかないじゃろうな』
「時間、掛かり、ませんか?」
『使用禁止の部屋を漁って、見つかるよりマシじゃよ』
「……そう、ですね」
『仕事を増やして申し訳ない』モスカールが謝ると『気にせんでいい。スムーズに事が運ぶのは、何万に一回くらいの確率じゃろう。ところで、ルーたちが来とらんが、大丈夫じゃろうか?』
『あの子のことなら心配ない』
『あそこはルーの管轄だぜ。忘れたのかよ』
『忘れとらんが、長期間離れとった。何が起こるかわからんから、心配じゃよ』
『年老いて心配性になっちまったのか?』
『余計なお世話じゃ。わしはそんなに年老いとらん!』
『本当は若いんだって言っても、誰も信じねえぜ』
『二人とも、そこら辺でやめとけ』




