21-3 対決
あの花のことをそのまま言うことはできないので、グレンに話したとおり、未開拓星域で採取され、輸入されてきた植物に未知のウイルスが付着していたらしく、それが人間の欲望を増幅させたと話した。
それが原因で争いが起こり、地表から植物が消え、海は死に空気は汚れ、星自体が危険に晒されていること。
また、自分たちの系星だけでは収まらず、植民系星のヴィラパス系を、住民の許可なしに勝手にリゾート計画を立て、それが元で独立戦争に発展し、多くの犠牲者が出ていること。
その余波を受け、ロイの出身系星で、有名なリゾートエリア内のファルネス系を、石化ウイルスを使って住めなくしたことはおろか、石化してしまったものを元に戻せないことを話すと、三当主たちは頭を抱え込んだ。
「我々は、なんてひどい事をしてきたんだ」顔を上げる統治者ルズロフはロイを見ると「さぞかし私を恨んでることでしょう。だから先ほど、私を見る目に殺気を宿らせておられたのか。当然のことですな」
「不躾なことをしてしまい、申し訳ありません」頭を下げると「あなたが謝る必要はありません! 謝らなければならないのは我々です。いや、どのように謝罪したらいいか……」再び頭を抱えると、ベルナーテが「我々は、なにを浮かれたことを言ってたんだ」と声を震わせる。
「申し訳ございません!」
統治者ルズロフの娘ナスタが立ち上がり、ロイたちに向かって深々と頭を下げると、他の二人の令嬢も立ち上がって同様に頭を下げ、ベルナーテの娘エルダーがアルバスのところへ行くと「わたくしたちでできることは何でも致します。何でもおっしゃってください!」
他の二人の令嬢もエルダーの横に立つので「わかりました。これから説明しますので、一旦、席に戻ってください」と声を掛け「ツバイチ家のご当主、申し訳ないのですが、皆さんにコーヒーのお替わりをいただけますか?」
「あ、はい。すぐに用意します」
コーヒーが運ばれてくるとアルバスはカップを取り「さあ、いただきましょう」飲むよう促すとゆっくり口を付ける。
全員が飲んでホッと息を吐くと「落ち着きましたか?」カップを置くと顔を見回し「では、これからやっていただきたいことをお話します」
海域を所有している統治者ルズロフには、海洋汚染の調査と浄化剤の開発を。
ベルナーテには空気汚染の分析と浄化剤の開発。
空気汚染が改善され、植物が植えられるようになったら、各々が所有している植物を空き地や川沿いなどに、まんべんなく植えること。
ツバイチは所有している広大な土地に優先して植樹すること。
各令嬢たちには、鉢植えを住民に配るよう話す。
「あとは何をすればいいでしょうか?」統治者ルズロフが聞いてくるので、今度はセージが話を進める。「ヴィラパス系の、リゾート開発計画の見直しをお願いします」
「そうですね。わかりました」
「独立については、改めて話し合いの場を設けてください」
「もちろんです」と聞いて、マーティたちの顔に笑みが浮かぶ。
「他には?」さらに聞く統治者ルズロフに「もう一つあります」ロイが声を掛ける。「ファルネス系の、石化についての資料をお願いします」
「ああ、そうですね。早速取り揃えます。他には?」
「あとは?」アルバスがロイたちを見ると無いと首を横に振るので「以上となります。それぞれの進め方はお任せします。我々は艦にいますので、何かあれば、グレンさんを通して連絡をください。では、これで失礼します」
玄関のところで当主たちに見送られると車に乗り、屋敷をあとにする。
艦に戻るとリビングへ行き、中央テーブルに座るが誰も口を開かない。
怒鳴りつけてやろうと勢い込んで行ったのに、相手の人の好さに文句の一つも言えず、スッキリしないからだ。
「こんなものなのか?」中心となって話していたアルバスがふと漏らすと「こんなもんじゃねえの」セージが席を立つので「どこ行くんだ?」
「腹減ったから、飯食いに行く」腕時計を見ると、午後一時半になろうとしていた。
食後、ロイは一人、自室に閉じこもっていた。
『複雑な気持ち、わかる』事の成りゆきを見ていたシュールが話し掛けてくる。
短剣の大きさになって、ロイの上着の内ポケットに入っていた。
「参ったよ。会ったらどうしてくれようかと考えてたのに」
争いの原因となったフォーテュムはまだ咲いている。
「親父になんて話したらいいんだろう」
『ありのままを話したほうがいいよ』
「……そうだな」
この後、誰もロイに連絡してこなかった。




