31 東の塔
そして、アニスとモスカールは東の塔へ行くと、中央ホールからエレベーターで五階へ上がり、ホール右手にあるフロントへ向かっていた。
『宮殿の主だった部屋には、特殊加工が施してある鏡が置いてあるんだ。そして、幾つかの部屋に置いてある別の鏡を通して、部屋の中が見られるんだよ』
「鏡のこと、どのくらいの人、知ってる、ですか?」
『私たちだけだよ。私たちだけにしか使えないんだ』
「そう、なんですか。でも、なんで、そんな鏡、置いてる、ですか?」
『宮殿を守るための手段の一つだよ。今回のような事が起きたときのね』
「セキュリティー、一つ、ですか?」
『そう。機械に頼りすぎると恐いからね』
「でも、どうして、そんなに、利用する、部屋、置いてる、ですか?」
『どういう事態が起こるかわからないから、いろんな所に置くことにしたんだよ』
「そう、なんですか。それで、その鏡、使って、敵の居場所、探る、ですね?」
『そう。奴は宮殿のコンピューターを操作してるだろうから、下手に動かすと警戒されてしまうからね』
フロントへ行くと、モスカールが呼び鈴を鳴らす。
「ハイ」受付嬢が出てくると『第三秘書室を使いたいんですが、空いてますか?』
「あの部屋は、現在工事中で使用できません」
『エエッ!』
「申し訳ございません。隣の第二秘書室でしたら空いてますけど」
『ンー、わかりました。では、第二秘書室を借ります』
「それでは、こちらに、お名前と使用時間をお書きください」入力フォーマットが表示されているダブレットとペンを出すので アニスが記入すると内容を確認し、第二と書いてある札がついた鍵をだすので、モスカールが取ると『どうなってるのか見にいこう』
フロントの向かい側にある右奥へ伸びる通路の入り口の壁に「秘書室一~五」と案内プレート板が貼ってあり、その通路へ歩いていく。
第三秘書室のところへ行くとドアが開放され、数名の作業員が、中から椅子や机を運びだしていた。
『どんな工事をするんですか?』部屋に入ろうとする作業員を止めると「壁紙を張り替えるんですよ。大分汚れてますからね」額の汗を拭いて答える。
『かなり掛かりそうですか?』
「そうですね。取り掛かったばかりですから、しばらく掛かりますよ」
『中の物はどこへ運んでるんですか?』
「この通路の突き当たり右側にある倉庫です」奥を指さすので『そうですか。では、宜しくお願いします』お礼を言うと『倉庫を見にいこう。鏡さえ手に入ればいいんだから』アニスに声を掛けて、目的の部屋へ向かう。
倉庫前に行くと、運良くドアが開いていたので中を見ることができたが、かなりの物が運び込まれていたので、鏡を探せる状態ではなかった。
『仕方ない。他の部屋に行こう』
「どこ、ですか?」
『資料準備室』
二人は六階へ上がり、毛足の短い絨毯が敷いてある長い通路を右へ歩いていくと、資料室と案内プレートが壁に貼ってある通路を左に曲がり、資料室一・二・三と札が並ぶ通路へ入る。
モスカールは資料室五と書いてあるドアの前で止まったが『使用禁止だって!』ドアには赤文字で書いてある札が掛かっていて、ご丁寧に鎖つきの鍵までついていた。
『どうなってるんだ?』困惑するモスカール。
「長い間、開けられて、ない、みたい。ドアの、隙間、埃、詰まってる」
『なんか、嫌な予感がしてきた』モスカールは少し考えると『とにかく、次の部屋へ行こう』
二人は来た道を引き返すと、五階へ降りていく。




