29-2 南の塔
「こんなこと聞いたら失礼かもしれないけど、悪の道へ進んでしまった者はいないのか?」
『もちろんいるよ。けど、そいつらはすぐに抹消されたよ』
「どうやって?」
『呪文が使えないように、能力を消してしまうんだ』
「せっかく覚えたことが水の泡になるのか」
『仕方ねえよ。掟を破ったんだからな』
「ところで、どのくらいの者がトップまで行けるんだ?」
『そうだなあ。トップクラスまで行けんのは、五百分の一くらいかな?』
「恐ろしいくらいの狭き門だな」
『こればっかは持ってる才能によるからな。いくら勉強しても、素質がなければ限界が来る。登りつめることはできねえ』
「素質ばかりは、持って生まれたものだからどうしようもないな。ところで、グリークはどの位置にいるんだ?」
『俺は、と言うより、俺たちは全員トップクラスだよ』
「本当か? それはすごいな。じゃあ、みんな同レベルなんだ」
『いや。トップクラスでもランクがあるんだ』
「じゃあ、誰が一番強いんだ?」
『兄貴だよ。なんと言っても「時の宮殿」の主人だからな』
「そう言われればそうだけど、あのお爺さんからは想像できないな」
『確かに、あの姿見たら信じらんねえだろうな』クスクス笑う。
「じゃあ、二番目は誰なんだ?」
『モスカール、と言うと思ってんだろう?』
「違うのか?」
『あとはみんな同じレベルさ』
「なぜ?」
『みんな同じ位置にいるからだよ』
「同じ位置?」
『この事は話すと長くなんから、時間があったら話すよ』
その後、様々な精霊が行きかう通路を進んでいくと、内部の雰囲気が変わった。きっと南の塔へ入ったのだろう。
その塔は、中世紀に建てられたような雰囲気で、お揃いのマントを着た騎士たちが出てきそうな感じがする。
『ところでロイ。剣の腕はどうなんだ?』
「そこそこには扱えるよ。一応、星間区武術大会で入賞したことがある」
『入賞か。せめて表彰台に立つくれえじゃねえとな』難しい顔をすると『で、その大会は大々的にやってるもんなのか?』
「まあね。僕が住んでる系星が所属してる、宇宙連盟、第五百五十五星区、主催の大会だから」
『ふうん、地区大会みてえなもんか?』
「そうだな。そのあと総合大会があるから」
『ロイのところが所属してる星区には、どのくらいの系星があるんだ?』
「いくつだっけ? この前の大会前に隣と合併したから、十二系星になったかな?」
『エエッ!』
「それでも中規模クラスだけど」
『で、入賞って、何位だったんだ?』
「四位。準決勝戦で、折れた相手の剣先が右足の甲に刺さっちゃって、病院直行」
『すげえ痛そう。でも、防具を付けてやったんだろう?』
「もちろん。でも、試合中に金具が壊れて、甲のプロテクターが外れちゃってさ。そこに刺さったんだ」
『それ、すごい確率だぞ』
「ああ、何かの策略じゃないかと思ったよ」
『じゃあ、もし、そのアクシデントがなかったら、もっと上に行けたのか?』
「それはわからない。あの時の相手はかなりの強者だったし、優勝候補の一人に挙げられてたからな」
『ロイも候補の一人だったんじゃねえか?』
「まさか。僕は護身用に習ってただけだから、練習量が違うよ。で、グリークはどうなんだ? 話ではかなりの腕前だってことだけど」
『俺は、精霊界の大会で優勝したくれえだ』
「優勝しといてくらいと言うなよ。精霊界で一番ということだろう?」
『七十年以上前のことを自慢してもしょうがねえだろう?』
「十分、自慢できると思うけど」
『大分腕が落ちてんから無理だよ。ま、とにかく、対戦相手のレベルが俺たちより低いことを祈ろうぜ』
「自信ないよ。世界が違う大会だから、どんな感じなのかわからないし」
『そんなこと言ってらんねえんだぞ。わかってんだろう?』
「わかってるよ」
『まあ、殺されはしねえから、安心しな』
「できるかよ」




