25 マルム ソムニウム
食後、お茶を飲んで一息入れると、それぞれ用意された部屋へ入る。
モスカールはルーと一緒に、アニスとバーネットは客室を使い、男性軍は、居間にあるソファで寝ることになった。
「主、寒くないですか?」毛布に包まっているので声を掛けると『大丈夫じゃよ。老人扱いせんでくれ』
『どう見ても立派な老人だぜ。兄貴』
『余計なお世話じゃよ』
「グリークは大丈夫なのか?」
『俺はいつも野宿してたから、毛布があれば大丈夫だよ。そういうあんたは大丈夫なのか?』
「思ったほど気温が下がらないから大丈夫だよ」
『今は初夏くらいじゃろうから、毛布を蹴飛ばさないかぎり、風邪は引かんじゃろう。グリークは気を付けたほうがいいがな』
『うるせえ』
「アハハ、言い返されたな」
『フン。野宿生活が長かったから直ったよ』
『それは良いことじゃな』
『ああ、良かったよ』
『おや? あまり大声で話さないほうがいいようじゃよ』シッと指を立ててマーティを見る。
彼は寝息を立てて、すでに眠りについていた。
『ここに来てからいろいろあったじゃろうから、ゆっくり寝かせてやろう。尋ね人も疲れたじゃろう?』
「そうですね」
『今日はゆっくり休みなさい』主が毛布をかぶると、ロイたちも毛布にくるまった。
翌朝、といっても日が昇らないので妙な感じがするが、部屋が明るくなり、いい匂いが漂ってくると目が覚めた。
「もう起きる時間なのか?」ロイが眠そうな顔をして起き上がると「おはよう。そろそろ、朝食の支度、できる」アニスが声を掛けてくるので「今何時?」と聞くと壁に掛かっている時計を見て「もうすぐ、九時になる」
「もうそんな時間なんだ。あれ? 主とグリークは?」
「顔を洗い、行ってる」
その時、マーティが目を覚ました。
「おはよう、マーティ」アニスが声を掛けると「ン? ああ、おはよう」
「大丈夫? ソファだと、ゆっくり、寝られなかった、でしょう?」
「そんなことない。久しぶりに熟睡した」
「僕も、アッという間に起きる時間になったよ」
『ここへ来てから、ずっと緊張しっぱなしだったろう? 神経が疲れてたんだよ』テーブルでセッティングしているモスカールが話に入ってくる。『顔を洗ってサッパリしてきな』
朝食には、表面は硬いが中はシットリした黒パンと、普通の三倍はある大きな目玉焼きに灰色をしたマッシュポテト。そして、もやしのような野菜が出た。
「昨日のシチューの具もそうだったが、変わったものが出てくるな」マーティが黒パンを眺めると『口に合いませんか?』ルーが心配そうな顔をするので「不味いと言ってるんじゃない。変わった素材のものが出てくると言ったんだ」
『この世界には太陽がないから、育つ植物も特殊な進化をしてるんだよ』モスカールの説明を聞いて「日の光がなくても育つ植物があるのか?」
『魔導師の腕だよ』
「ああ、なるほど。大した腕だ」
見掛けは変わっていても十分に満足する味だったので、談笑しながらゆっくり食べ、食後のお茶を飲むと、モスカールがこれからのことについて話しだした。
『本当なら、ここで休息する時間を取りたいんだが、今の状況では落ち着かないだろうから、早速、作戦に移ろうと思う』
異議が出ないので話を進める。




