20 修正
翌朝、午前七時。
『ロイ! 起きて! 花が咲いてるよ!』
シュールの大声が頭の中に響くので「夕べ遅かったから、もう少し寝かせてくれよ」
『昼寝すればいいでしょう! 早く起きろ!』
「昼寝って。まったく。あれ、いい香りがする」
寝ぼけた目でベッド脇を見ると、サイドテーブルに置いてあるフォーテュムが一斉に咲いていた。
「すごい! 本当に花の色がグラデーションのようになってる!」飛び起きて見ていると来訪のチャイムが鳴るので「まったく、こんなに早く来るなよ」渋々ベッドから出てドアを開けると、アルバスたちが立っていた。
「気になって寝らんなかった」セージは徹夜したらしい。眼が充血している。
「セージに叩き起こされた」眠そうに目をこするアルバス。
「二人に叩き起こされた」大欠伸をするマーティが「花は咲いたか?」と聞くので「ああ、すごいことになってるよ」
寝室に入った三人は、花の存在感に圧倒されて眠気が吹き飛んだ。
「俺、花のことはよくわかんねえけど、普通、下から順に咲いてかねえか? いっぺんに全部は咲かないだろう?」
「まあ、普通じゃないからな。気にするな」深く考えないようにするマーティ。
「きれいだな。それに、危険な甘い香りがする」アルバスの言葉を聞いて「そうだな。思考を乱されそうな香りだよ」同意するロイが「コーヒー淹れるからリビングに移動しよう」隣の部屋へ移動する。
ソファに腰掛けると、これからのことについて話し合った。
「とにかく、無事、開花までこぎつけたわけだ」アルバスが話しはじめる。「本当に、花に関しての記憶が消えてるか、現状の確認が先だな」
「それは、グレンの話を聞けばわかるだろう。どの程度まで記憶が消えてるかによって、対応の仕方が変わるだろうから、話の辻褄を合わせるために、都度、内容を確認しよう」ロイが案を出すと全員頷く。
「そういえば、そろそろグレンが起きるころだろう?」腕時計を見るセージ。「部屋に迎えにいったほうがいいんじゃねえか?」アルバスを見ると「そうだな。ロイ、グレンを迎えにいってくれ。俺たちは、朝食を済ませたら作戦会議室へ行く」
午前九時。
ロイがグレンを連れて会議室に入ってきた。
「おはようございますグレンさん。こちらにどうぞ」アルバスが向かいの席を勧めると「おはようございます。失礼します」戸惑い気味に周りを見回しながら指定の椅子に腰掛けるので「これから詳しく説明しますから、心配しないでください」アルバスの言葉にホッとしたのか、表情が少し和らぐ。
話しながらグレンの記憶を確認すると、フォーテュムに関することがすっぽりと抜けていたので、打ち合わせどおり、この星で悪質なウイルスが繁殖し、それを駆除したらウイルスに関する記憶が消えてしまったと話した。
「信じがたいことですが、宇宙管理局の方のお話でしたら本当なんでしょうね」
アルバスたちは独立のために反旗を翻したことで、宇宙管理局から除名処分を受けているが、説明する内容に真実味を持たせるため、そのことは伏せて、極秘調査のためにリゾート会社の社員として入星したと話した。
「管理局の方にそんな真似をさせてしまい、申し訳ございません」頭を下げると「朝起きたとき、どうしてここにいるのか、なぜ服装や髪形、体形まで変わってるのか理由が思い出せず、鏡を見て混乱しました」
「いろいろとあったようですから、深く考えないでください。大事なのはこれからです」
「そうですね。でも、私はこれからどうしたらいいでしょうか?」
「たぶん、お屋敷では大騒ぎになってると思いますので、我々が出向いて説明しますから、他の二人の当主にもご足労いただくよう手配していただけますか?」アルバスの提案を聞いて、グレンは嬉しそうに「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。早速、当主に連絡します」部屋の隅へいくと携帯電話で連絡を取りはじめる。
「あの花のことを知ってるのは、当主の家族たちと数名の関係者だけなんだろう? 変わり果てた自分たちの星を見て、どうしてこうなったのか、理由がわからず悩むんだろうな」セージが隣のマーティに話を振ると「だから、嘘でもその埋め合わせができることを作らないといけないんだ」
そこへグレンが戻ってきて「ぜひお越しいただきたいと当主が申しておりますので、これから屋敷へご案内いたします」
「わかりました。早速準備します」アルバスが答えるとみんな席を立つ。
屋敷へ向かう途中、大型車の後部座席で向かい合って座っていると、窓の外を見るグレンが「こんなひどい状態になったのも、そのウイルスが原因なんですね?」深刻そうに聞いてくるので「もう少し遅かったら、この星は壊滅してたでしょう」アルバスが説明すると「助けていただいてありがとうございます。全住民に代わってお礼を申し上げます」深々と頭を下げるので「これも我々の仕事ですから」慌てて彼の体を起こす。




