18-2 計画変更
研究室には白衣を着たニセ研究員が数名、待機しており、セージが部屋に案内すると、大きなテーブルの上に道具が一式揃えてあって、研究員役の一人が説明を始める。
「この土は、栄養価の高い有機物を含んだ何種類かの土を配合したもので、この花に合うようブレンドしてあります。それと、こちらの水ですが、ミネラルを多く含む軟水をブレンドしています」
いかにもこの花を育てるのは大変だということをアピールするが、本当は、なんの変哲もない普通の土と水である。
そんなこととは知らないグレンは真剣に聞きいって「思ったよりもデリケートな花だったんですね。僕もいろいろ試したんですが、配合が違ってたのでしょう」メモを取っている。
後ろで聞いているロイとセージは、顔を見合わせて苦笑した。まじめな彼を騙すのは、いくら解決策といっても心苦しい。
「では、早速植えてみましょう」
もう一人の研究員役がスコップで大鉢の中に土を入れ、グレンから球根を受け取ってテーブルに置くと、セージが「では、花に話し掛けてください」グレンを促す。
すると彼は「また、あのきれいな花を咲かせて球根を増やしてくれ」と声を掛ける。
その後、セージが球根を鉢の中にいれ、植え終わるとテーブルの中央にあるガラスケースに入れてライトを点ける。
「このライトは太陽の代わりです。ガラスケースに入れたのは、露地栽培と同じ環境にするためで、湿度、気温を調節できるようになってます。これで、五日くらい待てば花が咲きます」
「あの、僕も一緒に作業してもかまいませんか?」
「もちろん構いませんよ。記録は彼らが取りますので、一緒に作業してください」
「ありがとうございます。花が咲けば球根を付けるでしょう。そうなればみんなに分けることができる。争いが治まる。僕はやっと、この苦しみから解放されます」ロイを見ると「あなたに会わせてくれた神に感謝します」手を取り涙ぐむので「もう少しで終わりますよ。頑張りましょう」
「では、部屋を用意してありますので、ご案内します」
セージがグレンを連れて研究室から出ていくと、ロイは花のことをニセ研究員たちに任せ、マーティがいる支社長室へ戻った。
「どうだった?」まだソファに座っているマーティ。
「順調にいってる。ただ、まじめな彼を騙してるのがちょっと心苦しい」
内ポケットから短剣サイズになった剣を取りだし、テーブルに置くと向かいのソファに座る。
「……それは何だ?」マーティが驚きの目で剣を見るので「あまり、深く考えないほうがいい」
「とりあえず、説明を聞きたい」
『長いままだとグレンに不審がられるって言われたから、小さくなったの』
「……小さく、なった?」
『ロイ、元の大きさに戻っていい?』
「ああ、いいよ」
すると剣が光りだし、収まると元の長さに戻った。
『フゥ、狭かった』
「マーティ、とりあえず、話を元に戻そう」
「……ああ、そう、だな」
「そういえば、セージが普段とまったく違ってたから驚いたよ。どこの誰だって思った」
「アイツはよくいろんな物まねをしてるから、特技だ」
「ヘェ、そうなんだ」納得すると「マーティも、支社長役が板に付いてたよ」
「そうか? しかし、着慣れない服を着て、言い馴れない言葉をしゃべると、肩が凝って疲れる」窮屈そうに首や腕を回す。
「ところでシュール。あの花はいくつ願い事ができるんだ?」ロイが気になったことを聞くと『七つだよ』
「それは、どうやって見分けるんだ?」
『茎の数。願い事を叶えるたびに、茎の数が減ってくの』
「ということは、花が咲かなくなったら終わりか。その後、花はどうなるんだ?」
『枯れるよ』
「まあ、自然の道理だな。でも、花が咲けば球根が増えるから、僕たちには強力なアイテムとなるわけだ」
『残念でした。あの花は一つじゃ増えないんだよ。オスとメスの球根があるんだ』
「じゃあ、相棒がいないと増えないのか」
『そうだよ。あれは皮が白いからメスの球根。皮が緑色のオスがいないと増えないよ』
「そうか。それは残念だな」
「しかし、そんな花は本来ないほうがいいんだ。便利であればあるほど、こんな醜い争いが起こる」
「そうだな。僕の系星もひどい目に遭ってるし」
『人間は感情のコントロールができないから、些細なことで争いを起こすんだよね』
「耳が痛いこと言うなよ」
「それだけ、人間は不完全ということだ」とマーティに言われ「誘惑に弱いな」苦笑するロイ。
「では、そろそろ球根を植えなおしに行ってくる」マーティが立ち上がると、剣を持つロイが「そういえばシュール。なんでグレンの願い事は叶わないんだ?」
『さっき言ったでしょう、あの花は一つじゃ増えないって。それに、あの花は精霊界の外じゃ繁殖できないようになってるの。悪事に使われたら大変だからね』
「なるほど、納得」
支社長室から出るとマーティは研究室へ向かい、ロイは、アルバスがいる作戦会議室へ報告に向かった。
これであとは、花が咲くのを待つだけである。




