9 アニスの救出 裏の性格
それから二時間後、ロイたちは黒い沼まできていた。
黒といっても藻の繁殖がすごくて、濃い緑色をしている沼だった。
「ここへ来たのは確かだ。さっき、新しい焚き火のあとを見付けた」後方を指すマーティ。
「では急ごう。早く追いつくんだ」目の前の沼を半周するように続いている道の先を見るロイが「あれ? あそこにいるのはアニスじゃないか?」湖の反対側を指さす。「ほら、向こう側のところ。こっちへ向かって二人歩いてくる一人はアニスだろう?」
「そうだ! アニスだ!」
『もう戻ってきたのか。早いな』感心するモスカール。
しかし、アニスのところへ行くと、彼女の態度を見て愕然としてしまった。
「何しに、来た? 私、鍵、取ってこれない、思った?」
「……アニス?」ロイが声を掛けると「ずいぶん、見くびられた」表情を変えずに言い返してくる。
あまりの豹変ぶりに、ロイたちは言葉を失ってしまった。
『まずいな。正気が吹きとんで、陰の性格が出たんだ』分析するモスカール。『こうなると、元に戻すのは難しいぞ』困った顔をするので「そんな……」肩を落とすロイ。
「遅かったのか……」無表情で冷たい視線を送ってくるアニスを見ると、深くため息を吐く。
「ヨォ、いつまで押し黙ってんだよ」
「エッ? ああ、君は?」ロイが気を取り直して聞くと「相手の名前を聞く前に、先に名乗るのが礼儀なんじゃねえの?」
「ずいぶと生意気な口をきくな」
「やめろ、マーティ」
「初対面なんだから、礼儀くらい守れよ」
「あら、人のこと、言える?」口を挟むアニス。「グリークだって、先に、私の名前、聞いた」
『グリークだと!』
「どうしたんだよ、モスカール。いきなり大声出して」
「モスカールだって!」今度はグリークが大声を出すので「自分だって、大声、出すくせに、人に、文句言う。知り合い?」
「エッ? あ、ああ」
「モスカール、知り合いなのか?」ロイが聞くと彼女は我に返り『彼は、グリークは、主の弟だよ』
「主の弟? ウソだろう!」
「いくらなんでも、年が離れ過ぎてるぞ!」
『年が離れ過ぎてる? モスカール、どういう意味だよ』マーティの言葉を聞きとめるので『彼は、老人にされてしまったよ』
『マジかよ!』モスカールが頷くとため息を吐き『そっか。でも、やっと時が来たのか』
「ねえ、何の話、してる?」
「訳はドアから出たあと話すよ。とにかく戻ろう」ロイが急かすと「私だけ、除け者、する?」きつい口調で言い返してくるので「時間がないから戻りながら話す。それでいいか?」マーティが聞くと渋々頷く。
その後、急いで来た道を走って戻る途中、マーティがアニスに今まで起きたことを話し、モスカールはグリークに経緯を話す。




