18-1 計画変更
翌朝のミーティングは大騒ぎになった。なにせ土壇場での作戦変更。戸惑うのも無理はない。しかし、アルバスとセージが指示を与え、動揺を抑えた。
ミーティングが終わった会議室には、ロイ、マーティ、アルバス、セージの四人が残り、会議を続けていた。
「それにしても、おとぎ話に出てくるような花が存在するなんて、いまだに信じられねえ」
「無理もないよ。絵空事のような話だから、体験しても納得するのは難しいよ」そういうロイも、まだ疑っているところがある。
「しかし、ロイの妹はどこでそんな花の存在を知ったんだ?」アルバスが感心するように話を振ってくるので「妹?」戸惑うと「植物に関してかなり詳しく研究してるらしい。どこか有名な研究所に勤めてるんだろう?」マーティが慌ててフォローするので「エ? あ、ああ、そうなんだ」
「勉強家なんだな。では、ロイは夕方にグレンを連れてきてくれ。それまでに準備を済ませておく」席を立つアルバスが「セージ。研究室の内装を考えるから手伝ってくれ」声を掛けて一緒に出ていく。
『私はロイの妹なの?』
「そのほうが疑われずに話を進められたんだ」
「先に、どう話したが聞いとくべきだった。いきなり振られてボロを出すところだったよ」
「悪いな。昨夜は遅くまで話し込んでたから、ミーティング前に話そうと思って忘れてた」
「いいよ。あとは、事がうまく運べるように、余計なことが起こらないよう祈るだけだ」
時間を見計らい、グレンに連絡を入れて花の詳細がわかったと告げると、彼は喜んで艦に来ることを承諾し、待ち合わせの時間と場所を決めると電話を切った。
それに併せて研究室の準備が急ピッチで進められたが、このような展開になるとは思わなかったので、設営が大変だった。
研究員役を決めたり、花を植えるための道具を艦内の倉庫から探したり、それらしい資料を用意したり。
数時間後、何とか研究室らしい部屋が完成すると、ロイは約束した場所でグレンと落ち合い、艦に連れてきた。
「これは立派な艦ですね!」予測していたものと大分違っていたらしく、面食らっている。
「長旅なものですから、不測の事態に備えるためと、社員に不便を感じないよう配慮してあります」
「そうなんですか。母体はさぞかし大きな会社なんでしょうね。しかし、大型の戦闘艦で移動されているなんて思いませんでした」
「宇宙を動くには様々な危険がありますからね。用心のためもあります。では、支社長と支部長を紹介します」
艦に入ると支社長室と電子版に表示されているドアへ案内し、インターフォンを鳴らして中に入ると、スーツを着た男性が二人、待っていた。
「支社長のマーティと支部長のセージです」
「ようこそグレンさん。お待ちしてました」正面の机に座っているマーティが声を掛けると、隣に立っているセージが「お忙しいところを、お越しいただきありがとうございます」笑顔で話し掛ける。
『セージの口調がいつもと違う』シュールが呟くので苦笑するロイとマーティ。
「この度はご協力いただきまして、ありがとうございます。」丁寧に頭を下げるグレンに「どうぞ、お掛けください」セージが手前のソファを勧めると「では、失礼します」また一礼して勧められた場所に腰掛ける。
マーティが右脚を引きずりながら歩いてくるので「脚をケガされてるのですか?」
「見苦しい姿をお見せしてすみません。先日、階段から足を踏み外してしまい、この有様です」ウソの弁解をしてソファに座ると「それは災難なことですね」気の毒そうな顔をする。
各自がソファに座ると「では、グレンさん。例の球根を見せていただけますか?」マーティが声を掛けると持ってきたアタッシュケースから小箱を取りだし、蓋を開けて中を見せる。
そこには、赤いビロードの布に包まれた、握り拳くらいの真っ白い球根が収まっていた。
『間違いない。フォーテュムだよ』シュールの声が頭の中に響く。
剣は、テーブルの上がよく見える正面の壁に飾られていた。
「確かにフォーテュムですね」マーティが説明を始める。「この花は大変珍しく、今もって生息地が不明なんですよ。ある探検家が偶然に見付けたものらしく、なかなか本物を見ることができないそうです」
「この花はフォーテュムというんですか。そうですか。生息地がわからないんですね」ガッカリするので「とにかく植えてみましょう。研究室に用意させてますので、セージが案内します」
「では、グレンさん。こちらへどうぞ」
セージが連れていくとロイは壁から剣を取り、彼らのあとを追って出ていく。




