4-1 マーティの救出 狭い世界の魔導師
「あなたが魔導師ですか?」ロイが声を掛けると「そうです。どうぞお掛けください」
ソファを勧めるのでモスカールの隣に腰掛けると、向かいに座る彼を見て、どこかで会ったことがあるような気がした。
「どうかなさいましたか?」
「いえ。どこかでお会いしたような気がするものですから」
「そうですか。では、長老のところへ行かれましたね?」
「ハイ。でも、どうしてその事をご存知なんですか?」
「彼は、私の兄なんです」
「お兄さん?」魔導師を改めて見ると「そういえば似てらっしゃいますね。でも、どうしてこんな所に、隠れるように住んでるんですか? しかも魔導師と名乗って」
「一つは、兄と意見が合わないからです。兄は堅物でして、昔からの決まりをかたくなに守ろうとするんですよ。私は新しいことが好きで、いつも衝突ばかりしてました」
「考え方の相違ですか。でも、新しいことにチャレンジしたい気持ちはわかります」
「わかっていただけますか!」
「昔からの伝統は確かに大切ですが、それを守りつつ、新しいことを組み入れるのは必要だと、僕は考えます」
「あなたのおっしゃるとおりです。いや嬉しいですな。こんなに気の合う方がいらしてくれるなんて」嬉しそうにお茶を飲み「ところで、今日はどんな事でいらしたんですか?」
「二、三日前に、僕の友人がこちらにお邪魔したと思うのですが」
「ああ、そういえばそうでしたね」
「実は、彼を迎えにきたんです。今、どこにいるかご存知ですか?」
「もちろん知ってますよ。この館にいますからね」
「そうですか。すみませんが、呼んできていただけませんか?」
「いいですとも」彼が手を叩くと先程のお婆さんが来て「マーティ君を呼んできてくれないか?」ゆっくり言うと「はい。かしこまりました」ゆっくり返事をして出ていく。
「彼はここで何をしてるんですか?」遠慮がちに聞くと「彼をここまで案内した兄の孫娘から、話し方を学んでますよ」
「話し方を、ですか?」石にされていると思っていたのに、意外な答えが返ってきたので戸惑ってしまった。
聞いた話と違うので隣のモスカールを見ると、平然としている。
その時「ジジ様!」ベネが走り込んできた。
「これ、お客様がいらしてるから、お行儀よくしなさい」
「ハーイ」素直に返事をしてロイたちを見ると「こんにちは」ペコッと頭を下げるので「お邪魔してます」言葉を返すと、あとからマーティが入ってくる。
「ロイ! どうしてここにいるんだ!」
「マーティこそ、何してるんだよ」
「いや、ベネが、ここで話し方をマスターしないと、先へ案内できないと言うものだから」
「ベネ?」
「この子のことだよ」魔導師が膝の上に座っている彼女の頭を撫でる。
「ベネットです」自己紹介をしてマーティを見ると「この人が、お兄ちゃんが言ってたお友だち?」
「そうだ」と答え「俺が石にされてると思ってたんだろう?」ロイを見ると「あ、ああ」モスカールを見ると、彼女はフフッと笑った。




