17-2 花の正体
夕食後、コーヒーを淹れて待っていると時間どおりに来たので、今までの経緯を話すと「それは不思議だな。シュール、その花について詳しく話してくれ」
『花の名前はフォーテュム。持つ者の願いを叶えてくれるの。願い事を言って植えると、花が咲いたとき、その願いが叶うの』
「どんなことでも叶うわけじゃないんだろう?」
『生死に関係することは無理だよ』
「殺人の道具や死者を甦らせることは無理ということか?」
『そうだね』
「他に受理できない願い事をしたらどうなるんだ?」
『芽を出さない』
「そこで判断するのか」
「危険をはらんだ花だな。もっとも、すでに波乱が起きてるけど」ため息を吐くロイ。
『花の特殊能力を知らなければ大丈夫だと思うけど』
「グレンが知ってるし、僕に話してる。まあ、僕以外に話してないと言ってたけど、今後話さないという確証はないからな」
「その球根は今グレンの手元にあると言ったな。早く取り上げたほうがいいぞ」
「取り上げるだけじゃ、危険を回避するだけで、今の状況を解決することはできない。花の存在を知ってる人達を何とかしないと、悪化するだけだよ」
「確かにな。しかし、知ってしまったものを消すことはできないだろう?」
『そうだよ、消せばいいんだよ。あの花の力で、花の記憶を消しちゃえばいいんだよ』
「だが、七年前からその花に関することで騒動が起きてるらしいじゃないか。原因となる花の記憶を消すと、支障が出ないか?」
「そうだよな。今の事態になった原因がなくなるわけだから、代わりになるものを用意しないといけないだろうな」
「さて、どうしたらいいか。シュール、いい案がないか?」
『そうだね。消してしまう花の代わりに、どこかから仕入れてきた植物に付着してた未知のウイルスが人間に寄生して、欲望を増殖させたけど、それを退治したら、その部分の記憶だけ消えたとかにしたら?』
「……どこからそんなネタを仕入れてきたんだよ」ロイが情報元を確認すると『えっと、この前見た寄生ものの映画のパクリ』
「……パクリなんて言葉、どこで覚えたんだよ」
「しかし、その手は使えるかもしれないぞ」
「確かにな。案外うまくいくかもしれない。それにしても、諸刃の剣のような花だな。使い方次第で全宇宙を征服できるぞ」
『だから、滅多なことじゃ手に入らないんだよ』
「なるほど。よくわかったよ」納得すると「そうなると、問題は、グレンからどうやって球根を預かるかだな」
『預かれないんだったら、彼ごと連れてくればいいじゃん』
「それはダメだ。計画外の人間を連れてきたら、こちらの作戦に支障をきたす可能性がある」
「マーティ。花のことを忘れれば、三当主は元どおり仲良くなるだろう。そうなれば変な決まりはなくなる。そうなると、ヴィラパス系のリゾート計画は見直されるんじゃないか?」
「それは……」考え込むマーティ。
「ということは、僕のところはそのとばっちりを食ったということか?」やりきれない虚しさに襲われて頭を抱えると「まだ予測の段階だ。そうと決めるのは早いぞ」冷静なマーティ。
「そうだな。とにかく、花を咲かすほうに計画変更だな」
「シュール。話ではかなり早く花が咲くらしいが、何日くらいを目安にすればいいんだ?」
『そうだね……五日、くらいかな』
「こんなときに冗談言うな」
『言ってないよ』
「グレンも、三・四日で咲いたと言ってたよ」
「いくらなんでも、植えてから四日で花が咲くか? 自然の法則を完全に無視してるじゃないか」
『花が咲くまで何ヶ月も掛かったら、すぐに叶えてほしい願い事があるとき、役に立たないでしょう?』
「確かにそうだが。そういう仕組みと思え、か」理解に苦しむが「統治者とのアポは一週間後だ。それまでに花を咲かせないといけない。どうやってグレンを連れてくるんだ?」
「彼は花が咲かないと言って困ってた。だから、咲かせる方法がわかったと言えば来るんじゃないか?」
「なるほど。絶対来るだろう」
「あとは、計画変更に伴うアルバスとセージへの説明だな」
「あの二人には正直に話す。いいな? シュール」
『花に関することだけにしてね』
「わかった。しかし、土壇場での計画変更はきついな。明日から忙しくなるぞ」マーティは立ち上がると「明朝ミーティングの打ち合わせも兼ねて、二人に話してくる」と言って部屋から出ていった。




