17-1 花の正体
結局スーツは買わず、市内を見学することもせず、来た経路を戻って艦に引き返すと自室へ戻り、コーヒーを淹れてソファに座った。
腕時計を見ると、午後五時を少し回ったところ。
「なんか、すごい話を聞いて、買い物する気分が削がれた」
剣は元の大きさに戻って、ソファに立て掛けてある。
『小さくなると窮屈で疲れる』シュールの声が頭の中に響く。
「本当に意外なことをやってくれるから、その度、度肝を抜かれる。どうやったら、鋼鉄製の剣をあそこまで小さくできるんだ?」
『剣の素材がこの世界のものじゃないから、説明しても理解できないって言ったじゃん』
「この世界のものじゃなかったら、どこの世界のものなんだよ」
『精霊界』
「ハ? 精霊界? 何だそれ」
『言ったじゃん。理解できないことだって』
「わかった。この話は次に出たとき聞く」理解できないと聞いてあっさり諦めると、コーヒーを飲む。
『あのね……私からも、話がある』
「なんだ。歯切れが悪いな」
『ちょっとね。驚くことがあって』
「ヘェ、何があったんだ?」
『今日会った、グレンて人の話』
「争いの原因になった花のことか?」
『うん……あれ、多分、知ってる花だと思う』
「あの花を知ってるのか!」
『花の形も色のことも合ってるし、なにより、植える前に話し掛けることも同じだから、間違いないと思う』
「そうか」少し考えると「それは、精霊界に咲いてる花なんだな?」
『エッ? あ、うん、そうだよ』
「こんなに早く、次の機会が来るとはね」
『なんでわかったの?』
「シュールが知ってるなら、この世界じゃないと予測が付くからさ」
『なるほど』
「この剣と同じ世界のものということか。で、肝心な話だけど、どうやったらその精霊界へ行けるんだ?」
『門の中が精霊界だよ』
「あの中が? そういえば前に、精霊域がどうとか言ってたな。じゃあ、門の中に咲いてるのか?」
『ううん。かなり貴重な花で、限られた所にしか咲いてないよ』
「そうか。精霊界とはシュールたちがいる世界だろう? そうなると、グレンが助けた男って、精霊界の者なのか?」
『そこが不思議なの。精霊は普通、人間に姿を見せたりしないのに、滅多なことじゃ手に入らない珍しい花の球根まで渡すなんて、あり得ない』
「ただでさえ手に入れるのが困難な花を、なぜ、その男は助けてくれたからといって人間にあげたのか、そこが引っ掛かってるんだな?」
『うん。わざわざ使い方まで教えるなんて、おかし過ぎる』
「さすがに今はなぜなのかわからないな。それより、なんか作為を感じるな」
『作為?』
「見えない力に誘導されてる感じがする、ということだよ」
『じゃあ、花を渡したのは意味があるというの?』
「でなければ、人間の前に姿を現したりしないんじゃないか?」
『……そうだね』
「この先の話は、マーティを入れたほうがいいな」
彼の携帯に話があるとメッセージを入れると、夕飯後に時間が取れると返ってきたので、午後八時にロイの部屋で話すことになった。




