39-1 現場検証
事件現場となった店に入ると「まだ開けてないよ!」カウンターにいる口ヒゲを生やした四十代くらいの男が声を掛けてくる。どうやら彼がこの店のマスターらしい。
「聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと? 代わりに何をやってくれんだい?」
「ああ、そうだった」
「ンー、そうだな。今日一日、客の相手をするってのはどうだ?」バーネットを上から下へ、舐めるように見るので「飲んだくれの相手は性に合わないわ」
「それが一番なんだけどねえ」
「あら、ピアノがあるのね」部屋の隅に隠れるように置いてある。
「今は使ってないから、埃まみれになってるよ」
「そうね、歌なら歌ってもいいわよ。飲み屋には欠かせないでしょう?」
「歌えるのか?」
「試しに一曲歌うから、判断して」ピアノのところへ行くと「本当、埃だらけね。雑巾貸して」
「はいよ」投げて寄越すので受け取ると「この分だと調律も狂ってそうね」
「たぶんな」
「しょうがないわね」埃を拭き取ってジャズ系の歌を歌うと「ヘェ、いい声してるねえ」
「昔取った杵柄よ。この条件でどうかしら?」
「OKだ」
「何時に開けるの?」
「午後五時からだよ」
「じゃあ、まだ時間はあるわね。調律できる人はいる?」
「ああ。頼んどくよ」
「時間だけど、五時から……そうね、十時くらいでどうかしら?」
「十分だ」
「じゃあ、取引成立ね?」
「ああ。で、聞きたいことって?」
「先にいいの?」
「いいよ。もし取引を破ったら、どうなるかわかってるだろう?」
「ええ、わかってるわ」
「で、なんだい?」
「三日前にここで起きた事件のことを聞きたいのよ」
「ああ、あの事件か」
「最初から話してくれないかしら?」
「なんでそんなことが知りたいんだ?」
「今度、事件の特集を組むのよ。だから詳細を調べてるの」
「そうか。あれは運がなかったとしか言いようがないけど、確かに彼が撃ったんだよ」
マスターの話によると、ロイたちが来たのは午後九時過ぎ。
奥のカウンターに並んで座り、最初はなにやら話し込んでいたが、突然、連れの男が怒鳴りだし、立ち上がると銃を取りだした。
しばらくはロイがなんとか宥めていたが、連れの男は興奮していき、とうとう発砲。
弾は誰にも当たらなかったが、危険を感じたロイが男の腕をつかみ、銃を取り上げようとしたとき引き金が引かれ、弾が男の腹部に当たってしまった。
「何よそれ。連れの男が悪いんじゃないの」メモを取りながら文句を言うと「しかし、撃ったのは彼なんだよ。だから、その場で逮捕されたんだ」
「そんなの横暴よ! 完全な正当防衛じゃない!」
「正当防衛を判断するのは難しいからね。付いてなかったんだよ」
「付いてる付いてないの問題じゃないでしょう! 担当者はどんな脳細胞を持ってるの?」
「俺に噛みつかれても困るよ」
「ああ、ごめんなさい。あまりにも無謀な判断するから、腹が立っちゃったのよ」バーネットは店内を見回し「現場はあそこ?」カウンターの奥を指すと「そうだよ」と答えるので、その場所まで行くと周りを調べはじめる。




