16-4 奇妙な花
「さて、仕切り直しましょう」ロイは水を一口飲むと「その花ですが、お土産として持ってきたのであれば、その花を買った店に行ってたくさん購入すればいいのに、そうしないのはなぜですか?」
「あの花は、仕事先で会った人から貰ったものなんですよ。その人がどこに住んでるのか聞かなかったものですから、捜しようがないんです」
「貰ったものなんですか? そうですか」小さくため息を吐き「ところで、その花はどんな花を付けるんですか?」
「あれはリンドウに似た釣り鐘のような花を付けます。一つの茎に七つのオレンジ色の花を付け、下へ行くほど色が濃くなっていくんです」
「グラデーションのように、ですか?」
「そうです」
「そんな花があるんですか? 作りものじゃなくて」
「僕も、この目で見なければ信じませんでした」
「どうして、そんな珍しい花をもらったんですか?」
「あのときの仕事先は、環境汚染が原因で星の気温が低下したため、豪雪星となってしまったところでした。
環境を元に戻すまで、寒さから身を守るための住居を作りたいという依頼で出向いたんです。
この星は建築に関して最先端の技術を持ってるので、その手の依頼がほかの星からくるんです。
僕は建築構造を研究するチームの責任者も兼ねてましたので、大口の依頼がくると、営業マンと一緒に同行してたんです」
「とても優秀な方なんですね」
「いえ、趣味が講じただけです」照れ笑いすると話を続ける。
「彼と会ったのは、依頼主のところへ行く途中でした。
猛吹雪の中、迎えにきてくれた車に乗って走ってると、突然、車の前に飛び出してきたんです。
彼は知り合いのところへ行く途中で、空港から近いと聞いてたので歩いてきたが、吹雪がひどくなって右も左もわからなくなり、遭難しかけたと言ってました。
私たちは彼を車に乗せて依頼主のところへ連れていき、事情を話して、一晩だけ彼を泊めてもらうことにしたんです。
そして翌日、出発する前に、責任者である私にだけ、お礼だと言ってその花の球根をくれたんです。
そのとき彼が」
『この花は、あなたの未来を変えてくれます』
「僕の未来を変える? どういうことですか?」
『あなたの大切な方にこの花を贈ってください。そうすれば、あなたの未来が変わっていきます』
「大切な人に、ですか?」
『そうです。帰られる船の中で、きれいな花を咲かせてくれと言って植えるだけです』
「そして、仕事の商談が成立して帰る途中、彼に言われたとおり、その球根に向かって「きれいな花を咲かせてくれ」と声を掛けて植えてみたんです。そうしたら、数日で花を付けたんですよ」
「数ヶ月の間違いではないですか?」
「いいえ、数日です。たぶん三・四日でした」
「すみません。ちょっとその話は信じられません」
「ですよね。実際に見ても信じられないんですから。とにかく、こんな花があるなんて聞いたことなかったので調べてみたんですが、どのカテゴリーにも載ってないんです。その時、花の名前だけでも聞いておくべきだったと後悔しました」
「花の名前を聞いてないんですか?」
「未来を変えてくれるという文言に気を取られてまして。しかも、こんな事になるとは思いもしませんでしたし」
「そうですか。で、その花をご令嬢にプレゼントした」
「はい。とても喜んでくれました」
「その花は、今も咲いてるんですか?」
「それが、一回咲いただけで、そのあと何回語りかけても芽が出ないんです。球根を増やして分け与えれば事は収まると思って、頑張ってるんですけど……」
「普通に植えても芽が出ないんですか?」
「まったく」
「本当に植物なのか疑ってしまいますね」
「そうですね」ここで腕時計を見て「おっといけない。そろそろ塾の時間だ」
「長話してしまいましたね。今日は本当にありがどうございました」
「いえいえ。それにしても、初対面の人にこんな話をするなんて。今までこんな事なかったのに、あなたになら話してもいいという気になってしまいました」
「そうですか? お話を聞くだけで、何も手助けしてあげられなくて申し訳ないです」
「話を聞いてもらえるだけで十分です。今まで誰にも話せませんでしたから」
席を立ち、ロイが伝票代わりのキーを取ると「ここは奢らせてください」
「そうですか? では、お言葉に甘えてご馳走になります」
会計を済ませると、エアマスクを着けて外に出る。
「マクガイアさん、名刺をお持ちでしたらいただけますか?」ロイがリゾート開発会社の名刺を出すと「ちょっと待ってください」内ポケットからカードケースを取り出し、一枚抜き取ると「またお会いしたいですね」名刺を交換するとメインストリートに出て別れた。




