37-2 事件の調査
「……彼の荷物はどうなったんですか?」
「翌日、警察が取りに来られました」
「その時、何か言ってましたか?」
「殺人罪で逮捕したので、所持品を取りにきたとおっしゃってました」
「逮捕したと言ったんですね?」
「はい、そうです」
「取りにきた人は刑事でしたか?」
「いえ、警官でした」
「本物でしたか?」
「エッ?」
「警察手帳を見せましたか?」
「警察手帳?」
「いえ、警察である証を提示しましたか?」
「あ、はい。ちゃんとライセンスカードをお持ちでした」
「そうですか」ホッとすると「その警官はどんな人でしたか?」
「エッ、どんな?」
「髪型とか体形とか」
「あの、その人が何か?」
「いえ、所持品を取りにきたのなら、きっと事件を担当してる班の人だと思うので、詳しい話を聞きに行きたいんです」
「ああ、そうですか。あの時来られたのは、ガッチリした体格で長身の方でした。とても温厚な方で、終始笑顔を絶やさない方でしたね」
「髪型はどうでした?」
「帽子をかぶってらしたのでよくわかりませんが、かなり短かったと思います」
「何か、特徴はありませんでしたか?」
「そうですね。両手に包帯を巻いてました。なんでも、恋人に大量のバラをあげようといろんなお店で買いこんで、束にしようとしたとき、トゲがあるのを忘れて掴んでしまったとおっしゃってました」
「一体、どれだけのバラを買ったのかしら?」
「さあ。かなり大柄な方でしたので、きっとすごい量だと思います」
「恋人も大柄ならいいけど。そうでなければ持ちきれないわ」
「ハハハ、そうですね」
「他に、何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったことはありませんでしたが、気になったことはあります」
「どんな事ですか?」
「普通、殺人事件が起きた場合、容疑者の行動を調べますよね? でも、翌日来たその警官の方以外、誰も来ませんでしたし、その方も、お客様について一言も聞かれなかったんです」
「それ、本当ですか?」
「はい。ですので、お客様のことをお話しなくていいのですか? と訊ねたところ、すべて自供したので、確認する必要がなくなったと言われたんです」
「その理由もおかしいわ。普通、証言した裏付けを取るはずよ」
「私もそう思いましたが、警察の方がそう言われるのであれば、それ以上、こちらから何か言う必要はないと思いましたので」
「借りた部屋は捜索したんですか?」
「いいえ」
「ますますおかしいわね。借りた部屋に何か隠してるかもしれないと思うはずよ」
「私も、ご案内しますと申し出たのですが、時間もないからとおっしゃられて」
「時間がないと言ったんですか?」
「現実はドラマのようではないと思いますし、いろんな捜査パターンがあると思いますので、こういう事もあるのかと」
「こちらのほうが、ドラマのような展開だわ」




