16-1 奇妙な花
有名ブティックが立ち並ぶメインストリートは、華やかな服を身にまとった人達で活気に溢れていた。
(活気のある所だけど、何かもの足りない気がする)
街中を歩きながら、妙な違和感を感じていた。
(なんだろう?)
『鳥が全然いないし植物もない。なんでだろう?』とシュールに言われ「なるほど。確かに。まあ、こんな空じゃ飛べないだろうな。もっと植物を植えればいいのに」
そんなロイの目の前で、一緒にスペースエアポートからバスに乗ってきた老婦人が警官に話し掛けていた。
「花束を買いたいのですが、近くに花屋はありませんか?」
「身分証のIDカードを見せなさい!」にこやかに対応していた警官が威嚇するような低い声を出すので、老婦人は驚き「何かいけないことをお聞きしたのでしょうか?」
「いいからIDカードを見せなさい!」有無を言わせぬ威圧的態度。「見せないのなら署までご同行願おうか!」いきなり手錠を出すので「ちょっと待ってください」オロオロして助けを求めようと見回すが、みんな素通りしていくので、見かねたロイが仲裁に入った。
「こちらのご婦人は、僕と一緒にスペースエアポートからバスに乗ってきたので、犯罪に関わるようなことは何もしてませんよ」
「スペースエアポートから来た? では、今日この星に来たのか?」
「はい。孫娘に会いに」
「あんたは?」
「僕は商用で」
「本当か?」何やら矛先がおかしくなってきた。「あんた、荷物も持たずに怪しいな。商用ならカバンくらい持ってるだろう?」
(しまった!)
「いや、今日は市内観光してるんです」
「仕事中に観光か?」
(まずいな)
警官がにじり寄ってきたとき「すみません。その人は僕の連れです」一人の男性が声を掛けてきた。「今日来られたので、市内を案内するところなんですよ」
「本当か?」
「はい。そちらのご婦人も初めてこの星に来られたようですし、今日のところは勘弁してもらえませんか?」男性が低姿勢で頼むと「フウ、仕方ないな」大袈裟にため息を吐き「婆さん、孫娘のところに行ったら、この星の規則についてちゃんと教わるんだぞ」
「はい。申し訳ございません」深々と頭を下げると「あんたも、怪しまれるような格好でウロウロするな」ロイに捨て台詞をはくと、不機嫌そうに歩いていく。
警官の姿が見えなくなると「災難でしたね」老婦人を労い「何もせず、真っ直ぐお孫さんの家に行かれたほうがいいですよ」
「はい、そうします。お世話になりました」お礼を言うとタクシー乗り場へ向かった。
「あなたも大変でしたね」
「ありがとうございます。僕も手錠をかけられて、署へ連行されたかもしれませんでした」
「この星に初めてきた人は、あのご婦人のような目に遭うんですよ。あなたはとばっちりを食ったようですね」
「あのご婦人のような目に遭う、ですか?」
「ええ。でも、大抵はこの星の規則について講義を受け、罰金を払えば帰してらえます」
「なぜですか? あのご婦人の何がいけなかったんですか?」
「あなたもこの星の規則について、何も聞いてないんですね?」
「規則ですか?」
「そうです。この話はここだと都合が悪いので、どこかに入りませんか?」
「そうですね。助けていただいたお礼もしたいので」
「そんなこと気にしなくていいですよ」
「では、コーヒーくらいですが奢らせてください」
「ハハハ、律儀な人ですね。では、この近くにうまい店があるので、そこに行きましょう」




