21-4 惑わしの世界
目的の青い実のなる木までは、歩いて十分くらいの距離だった。
「なんだ、こんなに近くにあったのか。すげえ遠回りしたな」青い実を見上げると「次は黄色い岩だ」
「……黄色い、岩?」
「今度は泣くなよ。またバカにされるぞ」
「は、はい!」気を引き締めると「ほら、大声が出るように食ってけ」紫色の桃のような果物を投げて寄越すので受け取ると「あの、どうやって、食べる、ですか?」
「そのまま皮ごと食べるんだよ」と言われ、恐る恐る食べはじめる。
「とにかく、もう一つ先まで行きてえから、早く食って聞いてこいよ」と言われ、急いで食べると周りを見渡し、近くにある林の中へ向かった。
ところが、入った途端「おやおや、これは美味しそうな獲物だこと」長い蔓が伸びてきて、アニスを捕まえる。
「あ、あなた、食虫植物!」
「そうだよ。よくわかったね」
「は、離して!」
「ハイわかりました、なんて言うと思ってるのかい?」ズルズルと引きずられていくので「グリーク!」叫ぶと彼は剣を抜き、食虫植物に飛び掛かっていく。
バサッ!
蔓を切り落とすと食虫植物は悲鳴をあげ、アニスが地面に落ちる。
「これ以上切られたくなかったらサッサと行け!」
「チェッ」食虫植物は舌を鳴らし、ドサドサと音を立てて逃げていく。
グリークは剣をしまうと「あれほど気を付けろと言っただろう!」
「もうイヤ! もう、こんな所、いるの、イヤ!」
「最初に言ったろう、あんたじゃ無理だって」
アニスが涙目を向けると「戻るか?」と聞いてくるので、黙っていると「どうする?」
「……行く」立ち上がると涙を拭き、気を取りなおして林の中へ入っていく。
奥にある白樺の林へ行くと「あら、人間だわ」
「まあ珍しい」
「どうしたの? 困ったことでもあるの?」
「あ、あの、黄色い岩、探してる、ですけど」
「ああ、あの岩ね」
「知って、ますか? 知ってたら、教えて、ください」
「ええ、いいわよ。あの岩は、あの山の向こう側だったかしら?」
「あら、この先の、河の向こう側だったと思うわ」
「そうだったかしら? 河の向こうにあるのは、水色の岩じゃなかった?」
「あら、そうだったかしら?」
「じゃあ、茶色い路の向こう側だったかしら?」
「……本当のこと、言いなさい」
「エッ?」
「本当のこと、言いなさい!」
「あら、怒ってるみたいよ」
「急いでる、から、早く、教えなさい!」
「どうする?」
「どうもこうも、ない! 早く、言いなさい!」
「……黄色い岩は、河の向こう側よ」
「本当?」
「……ええ」
「絶対?」
「……ええ」
「もし、違ってたら、切り倒して、やる!」
「本当よ! 本当に黄色い岩は河の向こう側にあるわ! だから切り倒さないで!」
「……わかった」踵を返して白樺の林から出るとグリークがいて「言えるようになったじゃねえか」と言ってくるが「先、行く」立ち止まることなくサッサと歩いていく。
指定された河に着くと、黄色い岩はすぐにわかった。
「最初からこのペースで進んでりゃあ、鍵のある場所に着いてたな」夕日を見るグリーク。「今日はここまでだ」
「次、どこ? 明日、すぐ、出発できる、よう、聞いて、くる」
「そうか。次は黒い沼だ」
「黒い、沼」歩きだすアニスに「すぐ暗くなるから、あんまり遠くへ行くなよ」声を掛けるが、彼女はサッサと歩いていく。
グリークの心配をよそに、アニスはすぐに帰ってきた。
「どこにあるって?」
「ここから、南へ行った、ところ、ある」
「そっか。飯ができたぜ」大きな葉っぱで作ったお椀を渡すと何も言わずに受けとり、座って食べだす。
その後、一言もしゃべらずに食べ終わると、毛布を掛けて横になるので、グリークはそんなアニスを見ると、入れたお茶をゆっくり飲みはじめる。




