21-3 惑わしの世界
結局、東へ行くのが正しかった。
「三回目にして当たりか。今度は一発で当ててくれよ」
赤い小路は、両脇に咲く花が全部赤いところから名付けられたらしい。
その小路が終わると、グリークが次の場所を指示する。
「次は青い実のなる木だ」
「青い実?」
「ここで待ってるから、サッサと聞いてこいよ」と言って近くにある木の陰へ歩いていく。
「聞いてこい、言われても……」キョロキョロと辺りを見回すと、左奥に生えている大きな木が小さな広場を挟んで話をしているのに気付き、近くまで行くと声を掛ける。
「お話中、すみま、せん」
「ン? 話の邪魔をするのは誰だ!」いきなり怒鳴られ「あ、あの、お話中、すみま、せん」
「なんだ、人間か。ったく、何の用だ!」
「あ、あの……」
「早く言え!」
「あ、あの……ここら辺で、青い実、なる木、知りま、せんか?」
「青い実だと? そんなもん自分で見つければいいだろう! あんたは動けるんだから!」
「そんなくだらないことで、俺たちの話を中断させるな!」
「サッサと失せろ!」
「は、はい! すみません!」走って戻ってくると「どう、しよう」グリークは一眠りしているようだ。
仕方がないので別のところへ行き、色んな草木に聞いて回るが、やっぱり言うことが違っていた。
困った顔をして戻ってくるとグリークが起きだし「聞いてきたか?」
「聞いて、きたけど、またみんな、言うこと、違う」
「で、どこへ行くことに決めたんだ?」
「それは、まだ……」
「決めてねえんだったらサッサと決めろよ。日が沈む前に、半分ぐらいは進んでおきてえからな」
今度は聞いた順に行くことにしたが、全部違っていた。
「ったく、ここでどのくらい無駄な時間を使ったかわかるか?」歩き過ぎて足が痛くなってくるが「もう一度聞き直してこい!」
追い立てられると、最初に聞きにいった大木のところへ再び行き「す、すみま、せん」
「エッ? 何だ、またあんたか」
「お、お話中、すみま、せん……」泣きながら声を掛けると「見つらなかったのか?」
「……はい」
「しょうがないなあ。どうする?」
「どこに行きたいんだって?」
「あ、青い実の、なる木です」
「ああ、そうだったな」
「あの木は、ここから南へ行って、二股の道を左へ行った先にあるよ」
「み、南、ですか?」
「ほら、南側の丘の上に、三本の木が並んでるのが見えるだろう。あの向こう側だ」
「あ、ありがとう、ございます」
「いちいちこんなこと言うのは面倒臭いんだが、この世界で誰かに何かを聞くときは、礼儀正しく聞いたらダメなんだよ」
「エッ?」
「きちんと言うと、揶揄ったり、ウソを吐いて困らせるんだ。だから、どこにあるのか教えろ! くらいの言い方しないと、誰も本当のことを教えてくれないんだよ」
「わかったら、次から気を付けるんだな」
「は、はい。ありがとう、ございます」
「言ったそばからこれじゃあ、無理なんじゃないか?」
「何もわかっちゃいねえな」
「この調子じゃあ、どこへ行っても揶揄われるだけだな」
「ああ、ほら、鬱陶しいからサッサと行きな」
追い払われてトボトボとグリークのところへ戻ると「ここでの聞き方がわかったか? 泣いたって誰も同情してくれねえぞ。逆に面白がられるだけだ」そう言われて涙を拭くと「行くぞ。どこにあるのか教えてくれたんだろう?」




