16-2 アニスが入ったドアの中
「は、はい」
「そっか。あんたは外の世界から来たのか。確かに、この世界にはない匂いがする」クンクンと匂いを嗅ぐ。
「外、ですか?」
「あの大木の幹の奥にあるドアから入ってきたんだろう?」後ろの大木を指すので「あ、そうです」
「じゃあ、頑張って鍵を探しな」と言って立ち上がるので「あ、あの……」
「なんだよ」
「あなたは、鍵、どこ、あるか、知ってる、ですか?」
「知ってるよ」
「本当、ですか! お願い、します! そこまで、連れてって、ください!」
「……そんなでけえ声出さなくても、聞こえるよ!」耳を塞いでしかめっ面をするので「す、すみません!」慌てて謝ると「一体、どのくらい離れてる奴と話してんだよ。鼓膜が破れちまうだろう」
「すみま……せん」
「とにかく立てよ」
「アッ、はい」立ち上がって服についた草を払うと「お願い、します。鍵、ある、場所、連れてって、ください」
「今のあんたじゃ無理」と即答。
「無理でも、行かないと、いけない、です!」再び大声を出すとまた耳を塞ぎ「でけえ声出すなって言ってんだろう!」
「す、すみま、せん!」
「ったく、とにかく、あんたのお供はごめんだ」
「そんな……」涙ぐむと「な、泣くことねえだろう! 鍵のある場所まで行くのは大変だから、やめとけと言ってんだよ」
「大変、でも、行かないと、いけない、です。お願い、します」
「お願いされてもなあ」
アニスが再び涙ぐむので「わかった! わかったよ! 連れてきゃいいんだろう!」
「あ、ありがとう、ございます」
「すげえ先が思いやられそう」
「良かった……」涙を拭いていると「俺はグリーク。あんたは?」
「ア、アニス、です」
「アニスね。さっきも言ったけど、鍵がある場所まで行くにはかなり大変だぞ」
「……どのくらい、大変?」
「そんなこと聞いてんじゃ無理だよ。やめな」
「頑張り、ます」
「途中で泣きごと言っても、聞かねえからな」
「そんな!」
「……だから」また耳を塞ぐので「す、すみま、せん……」
「いい加減気づけよ。俺の耳は小さな音を聞き分けられるんだ。あんたの耳のように鈍感じゃないんだよ!」尖った猫の耳を指すので「す、すみま、せん」
「ったく、謝ってばかりで、少しは前向きなことが言えないのかよ」
「……す、すみま、せん」
「言った傍からこれだ」ため息を吐くと「とにかく、くじけたらそこで終わりだからな」
「そ、そんな……」涙目を向けると「俺はサポートするだけだ。鍵が必要なのはあんただろう」
「でも……」
「……やめるなら今の内だぞ」
「やめる、こと、できない」
「なら、泣きごと言わずに言うこと聞けよ」
「……はい」
「本当に大丈夫かよ」泣き顔のアニスを見ると、先が思いやられてため息を吐く。




